秘密集会の地下室と黒頭巾 4
一瞬の呆けたような表情のあと、
「……何が可笑しい?」
「いや……」
(つい最近に、似たようなことを問われた気がするな……)
苦笑の仕切り直しか、黒髪の少年はひとつ咳ばらいをする。
「……俺は、魔名教会の密偵などではない。そんな風に見えるか?」
「……念のためだ。密偵などいようがいまいが、問題はないのだがな」
黒頭巾は
術者はこくんと、頷きを返した。
それから、黒頭巾からの質問がいくつか投げられた。
出自。
憎い相手はいるか。親しむ者はいるか。
魔名教への信仰具合。魔名教の教主をどう思う。魔名教の司教をどう思う。
現状の居坂をどう思う。
剣術の心得があるか。それはどの程度か。
明良は宣言通り、問われた事には偽りなく答えていった。
(……疲れるコトばかり、訊きやがる……)
ひと段落ついたのか、黒頭巾は少しだけ考えこんだ様子のあと、チラリ、と明良の背後の「
「魔名教に染まってなく、武芸の熟練も感じる……。歳の割には芯もあり、度胸強い……」
「……品定めは終わりか?」
考えに
「最後だ。お前は、ゲイルくんに『アキラ』と呼ばれていたな? 魔名の
「……そんなつもりはない。魔名を奪われたことを知った者が、つけてくれただけだ」
「その者の素性は……?
ここで明良は、クミについてごまかす気が少しだけ起こったが、今は「
返答を聞いた黒頭巾の目が大きく
「……『客人』様が現代に現れていらっしゃるのか……!」
そうして突然、狭い室内に響く笑いを上げる黒頭巾。
話し声の低音とは打って変わり、その笑い方と声は、明良には楽しそうな、若い女のもののように幻聴される。
「……なおさら、いいな。アキラくんを帰順させれば、客人様が手に入る、というわけか」
「……品定めが終わったなら、今度は俺の問いに答えてもらおうか」
「絶対に帰順などしない」と思いながら、明良は相手を見遣る。
その鋭い眼差しに「いいだろう」と答えると、黒頭巾は幻燈術者の男に向けて手振りをやった。それで術者は一礼をし、室を辞していく。
「……さて、アキラくんの質問とはなんだったかな?」
「この集団に
黒頭巾の奥の目が、一瞬だけ笑ったようだった。
「……大師……ホ・シアラか。我ら『魔名解放党』とは関係がない。行方不明になっていなければ、むしろ敵方だ」
「去来の
訪れた村々で「
その情報は、黒頭巾も当然知っていたことらしい。
そして、彼の言い方――。
(『幻燈の正偽』にかけたわけではないが、どうやら本当に関係がないものかもしれんな……)
「……間接的に、『魔名解放党』内には世話になった者もいるかもしれんがな」
聞いた明良は、「間接?」と眉を
「この『解放党』に参加している者は、附名術者のトジロ師から『主神の教え』を授かった者が多い」
「……トジロ……?」
その名に、明良はどこか聞き覚えがあった。
「トジロ師と去来大師とは懇意の仲であったとの話は、有名だ」
「トジロと……シアラが……」
「党内には間接的に関係を持った者もあるかもしれんが、大師自身が直接、『解放党』と関係を持っていることはない」
そこで明良は思い出した。
(美名が追って行った名づけ師の名が、『トジロ』じゃなかったか?)
嫌な感覚に瞬きを重ねる明良の前で、黒頭巾は「ふたつめを答えよう」と言う。
「……安心しなよ、アキラくん。四日後の烽火では、人的被害を出すつもりはない」
「……」
「それが気になっていたんだろう? 烽火の目標は、大河にかかる大橋。これを深夜、ヒトがいない時間を見計らって陥落させる。目的は、『魔名解放党』の実在を知らしめ、魔名教会との交渉の場を図ること」
「交渉……?」
「そう。我々の最終目的は、魔名教の体制を打ち倒すことだ」
明良はまたも、瞬きを繰り返す。
今度のその動作は、どこか幻想じみて子どもじみた「魔名教を打ち倒す」という言葉に、半ば呆気にとられたがためだった。
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