狼狽の少女と眉目秀麗な名づけ師 3
「はい」
物静かに応える声。
「来客用
魔名教会員の
(えぇ……? なにこの、外国人モデルさんみたいなヒト……)
少しの間、相手に
声に気付いた若年の男は、見下ろした先に小さな黒毛のアヤカムの姿を認めたためか、目を丸くして瞬きをした。
「……今の声は……あなたですか?」
「はい、そうです。喋るアヤカム、『ネコ』のクミです」
「喋る……。もしや、まろう……」
「『
先んじて言い切った「ネコ」に、男はふわりと優し気に微笑む。
正面きって贈られたその美しい笑顔に、クミは思わずため息が出そうになった。
「なるほど、判りました。客人様じゃないのですね。ネコのクミさん、こんばんは」
「……こんばんは。お休みのところ失礼しますが、こちらにトジロ様はおられますか?」
「トジロ」という名を聞くと、男はまた瞬きをする。今度のその所作には、困ったような色があった。
「……いえ、トジロ師はおられませんよ。
「あ、それは……失礼しました……」
小さなネコが
(やだ……。すっかり、トジロ様がいるもんだと先走っちゃった……。それにしても……)
クミはあらためて、相手を見上げる。
彼女は「名づけ師」や、「オ様」といった呼び名から
しかし、今、目の前でたおやかに微笑んでいる「名づけ師」は、想像を遥かに裏切って若い。そして、美しい。
金髪や見た目の若さ、美しさという共通項で、クミの心中にはとある人物の姿が思い浮かぶ。
(まさか、モモ
「……
(クメン様……? いつか、美名が言ってた、『
「それでクミさん、
「あ、そう、そうだわ……」
小さなクミは
クメン師の本来の用向きが終わったあと、よかったら、自身の大切な友人に魔名を授けて頂きたい
彼女は、美名は、魔名を授けてもらうことを夢見ているのだと、少々熱っぽく。
屈みこんで、クミに視線を合わせてくれて、うんうんと
「
「わぁ……。ありがとうございますッ!」
「このサガンカをあげて、明日は『未名』の子に『
「……はい!」
「よろしくお願いします!」と頭を下げたクミに、愛し気な目線をくれる、
顔を上げたクミは相手のその
(ヤバ……。カッコいいし、スタイルいいし、物腰柔らかで性格最高だし、これは毒だわ……。はやく帰ろ……)
そのまま「名づけ師」に見入っていたくなるのを振り切るように頭を振ると、黒毛のクミは
視線の先では、一部始終を隠れて見ていたのだろうか、小さな案内人、ミルザの顔が岩肌の陰からピョコンと出ており、クミと目が合った。
――その時だった。
「クミさん」
背後から、呼び止める声。
振り返ると、この数瞬でどういう変化であろうか、クメンの顔色が冴えない
「はい……。どうかしました?」
「クミさんは、トジロ師のことは、どこで……?」
冒頭で人違いしたことで気分を害させてしまったかと焦ったクミは、「違います、違います」と慌てる。
「ちょっと、勘違いしちゃっただけです。私が最近聞いてた『名づけ師』様の御名前が、トジロ様だったもので……」
「……そうですか」
言い訳を聞いても、クメンはじっとクミの
モモノ大師もそうで、美名もときどきそうだが、
「……トジロ師は、
「……え?」
「……ですから、クミさん。今後、トジロ師の名は口に出さないよう、お願いしてもいいですか?」
「え……? あ、あ……。え?」
きっかりとした
なにかしら正当な権勢を振るい、従わせるかのようで、怖い。
その言葉の意図もよく判らず、ただ威勢に
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