転呼者と復讐者 3
立ち上がろうと力を込めれば、為せそうであった。
振り払おうと
だが、彼らの身体は、無事でいてくれるだろうか。血の通っていない四肢は、これ以上壊れないでいてくれるだろうか。
「この……外道がッ! 貴様は『
「……そう。その『混沌』ですよ」
シアラ大師が、歩み寄っていく。
少年は
「私に必要なのは、『
「『反り』だと……?!」
「……『物語』を盛り上げる要素は、『英雄』を高める要素は、アキラさん、一体、何だと思いますか?」
大師は
土埃に汗、
「……その要素とは、『対となる存在』、『敵対するもの』です」
「貴様の講釈など、聴きたくもないッ!」
「……『英雄譚』に強大なアヤカムが登場するように、『魔名教典』に神々と敵対する『混沌』があるように、『
明良をふたたびに見下ろす鏡面越しの瞳は、
「私は、『ワ行
ふっと、口角を上げる赤髪の大師。
「『劫奪』は強力無比な魔名です。私の旅路に、私の目的に、強く光が差したものです。ですが、それによって作られる影に、私は怯えたものです。『うまく、行き過ぎていやしないか』、と……」
「なんのことを……言っているんだ、貴様は……」
「あなたのことですよ、アキラさん」
大師が向ける指先に、明良は激しい嫌悪を抱く。
「……順風満帆な船は、いずれ来る嵐にあっさりと呑まれる。それをすでに知っていた私は、自らの『反り』を用意する試みをしました。自戒し、自覚するように、自ら『敵』を作りました。それがアキラさん、あなたなんですよ」
「俺が……貴様に用意された……?」
「『劫奪』には、短所と弊害があります。魔名と同時に、相手の記憶も奪ってしまうこと。さまざまに手順が必要なこと。奪った時点の魔名からは「段上げ」ができないこと。私の――『転呼』の存在を知られてしまう可能性」
大師は呆れるように、肩をすくめてみせる。
「おおっぴらに魔名を奪えば、記憶を失った者を生み、私自身の秘密と存在の露呈も危ぶまれる。しかし、全ての魔名を網羅するには、数十人に『劫奪』を仕掛けねばならない。ですから、各地を渡り歩く「名づけ師」のひとりを引き込み、旅人やごく小さな人里――騒ぎになり
明良は唖然として悟った。
自らの中の、風雪の記憶。
視界の奥、
それは、「劫奪者」と「使役者」でなく、今、目の前で
「……あれは何年前でしょうか。ひとりの少年の魔名を奪う目的で、私たちは十数人ほどの小さな集落を壊滅させました。魔名を奪う間際、私はその少年の瞳が、綺麗な
「……そ、そんなふざけた理由……」
明良の拳は、怒りのあまり大きく震えだした。
「少年には
「……ふざけろッ! 貴様の身勝手で、いくつの村を、ヒトを……、クシャをッ!」
土の地面に自らの拳を
「……クシャは、私の目的とは違います。上からの
「……上?」
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