劫奪者と使役者 6
「
黒髪の少年は、赤髪の大師の呟きなど問答無用とばかりに、斬撃を放った。
たったひとつの、閃光。
だが、
「……カ行・
その直感に従い、大師は「
しかし、「幾旅金」の剣閃は、
「ぐぁッ!」
ガッシャァッ!!
騒然とした
いや、飛ばされたのではなく――。
(……危なかったッ! 「
パラパラと、硝子の破片が中庭に落下していく中、大師は空中で、くるりと身を回転させる――。
「……どういうわけだ?」
黒髪の少年が窓際に立ち、問いかけた。
相手に対する警戒が高まっていることは、その刃の切先が差し向けられていることからも伝わってくる。
遠く、拍子のような音が聴こえる、
「……なぜ、『ハ行去来』の貴様が飛べている?」
まるで、見えない地面がそこにあるかのような立ち姿であった。
「……なぜ貴様が、ヒミの『氷の盾』を使えている?」
肩で息を吐きながら、ホ・シアラは相手の顔を見つめる。
執務室からの明かりを背にしてもなお、少年の瞳は、憤怒の光激しく自身を睨みつけていた。
そんな敵意を一心に向けてくる相手が、「去来」の「何処か」を突破する
「……貴様か? 『
「……素晴らしい『
「ほざいてないで、答えろォッ!!」
大師はズレた
「私は『魔名を奪う者』……。『五十の
「奪った魔名は……貴様が使えるということか? 『去来の大師』を
空中の大師はふう、と息を吐くと、首を振った。
「……勘違いしないでください」
その仕草は、明良の言葉の否定とともに、自身の
「私の魔名は、ホ・シアラ。『ハ行去来』の大師であるのは、
「ならば……なぜ魔名を奪える……? なぜ、
「魔名はひとり、
「名づけ」で定められた魔名とヒトとは、その旅路を終えるまで、「段上げ」があるにしても、共に歩み続けていく。魔名を返上するその時まで、各々の
それは、絶対的な法則のはずであった。
「……アキラさんは、物を書いたことはありますか?
突拍子もない問いに気を削がれまいと、明良は柄を握る手に力を込めた。
答えない明良に構わず、去来の大師は続ける。
「『私はあなたを殺します』。この文を書いたとして、おかしなことに気付きませんか?」
「……何をほざいている?」
「読み上げてみると、判りますよ。『私はあなたを殺します』……」
明良は生唾を呑み込む。
(『私はあなたを殺します』だと……?! 何を訳の判らない……)
だが、少年は目を見開いた。
心中に浮かんだ
(『私は』……『わたしは』……。『わたし』……『は』! 『は』の文字を……『ワ』の音で読んでいる……!)
「……気付きましたか?」
「バカな……。そんなことが……、『ハ行去来』が『ワ行劫奪』に変わるとでも言うのかッ……?!」
「……私の推測ですが、純粋な『ワ行』の魔名は、後にも先にも存在しません。ヒトが長年使っているうちに、元は『ハ行』だった音が『ワ行』の音に変化したように、年月を経て、高みに至ったごく僅かの『ハ行去来』の者だけが、『ワ行劫奪』を得る……」
「そんな……子どもの絵空事みたいなこと……」
赤毛の大師は薄ら笑いを浮かべて、「事実です」と断言した。
「どんな書物にも記されていないこの現象を、私は『ハ行の
大師は、自身の手の甲を明良に向かって掲げ見せる。
「私は
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