劫奪者と使役者 3
(斬撃を飛ばす間もない!)
落下する
その直下、空中に浮かぶ、
彼の魂を余すところなく捕えようとでもするかのように、
すぐ足元のそれを
「
「ッ?!」
「幾旅金」が旋回する。
渾身の振り回しは増幅され、明良の頭上、唸りを上げる
すると、明良の落下は止まった――どころか、少しだけ上方に浮き戻ったのだ。
掴み損ねて握るようになった大師の拳を蹴りつけ、明良は残っている壁に向かって跳ぶ。
つづけざまにその壁を蹴りつけ、大師の身体目掛けて跳び下りる。
「
いくつもの鋭利な剣突きがシアラ大師を襲う間際、またもその姿は消失した。
執務室に着地した明良は、歯噛みする。
「……
「それは、私も同感です」
大師の姿は、執務机の傍にあった。
ちょうど、「
「まさか、その遺物にそんな面白い使い方があったとは。誰に教わったのです?」
「知らん」と叫び返して、黒髪の少年は、その
「まるで、『
「子どもの玩具さえも、外道には惜しい!」
叫びながら、明良は「幾旅金」を握り直す。
(攻め手に欠けるのは、こっちもだ……。どれもこれも、避けられてしまう……。あとは……)
明良は悟られぬよう、
(アイツらに
「……思ったより手こずりますね。私の執務室もボロボロだ。柔軟さでいえば、アキラさんは動力大師の一番弟子を凌駕していますよ」
去来の大師は冷淡な笑みを零して、両の手を掲げ上げた。
「……ですが、もうそろそろ御終いにしないと、この騒動に無関係の者が集まってきましょう。無闇に
「奥の手」を宣言した大師の妖しい平手の
「ハぎょ……」
それは、突然であった。
身構えていた明良も、一瞬、何が起こったのか判断できかねた。
シアラ大師の詠唱は止まり、蠢いていた平手も止まり、大師の息遣いさえも止まったのだ。
まるで時を止められたかのような去来大師の停止姿。
その
「こ、凍っている……?!」
大師の
そして、「氷」といえば……。
「あ、アキラさん……」
宙に浮いているような頭のひとつ、動力大師の弟子、『
明良はその顔に目を向ける。
「無事か?!」
「……すみません。しくじりました……。ですが、今なら斬れます。とどめを……」
「消え去ることができるコイツには、剣撃は……」
「『去来』魔名術での『消失』は、『魔名術』で構成された囲いを
(……そうか。だから、ギアガンは『智集館』を土壁で囲ったのか!)
「今なら逃げられません。ですが、間合いが遠い剣では、氷の囲いが斬り裂かれる瞬間に逃げる間を与えるかもしれません。ですから、最接近して、最速のひと振りでとどめを……」
ヒミの声に導かれるようにして、明良は氷漬けのシアラ大師に歩を近づける。
間近で見ると、内部の大師は完全に身動きが取れないようであった。
グリグリと、
明良を見、動力の大師の生首を見、ヒミを見ている。
困惑と焦燥の色が、瞳を充たしていた。
「……『
明良は去来大師の目前で、「幾旅金」を上段に構える。
「……ホ・シアラ。すまないが、ここまでされて、危険な物を貴様に感じて、生かしておくほど俺は寛容ではない。次こそは、よき旅路を歩んでくれ」
黒髪の少年は、なぜかしら口惜しい気持ちを押し込めるように、柄を握る手に力を込める。
だがその途中でつと、心中に響きはじめた違和感――「とある言葉」が明良には気になり始めた。
(『アキラ……さん』?)
ヒミの、喉奥から絞り出したような声。
「アキラさん」と、いましがた、自らを呼んだ音。
違和感の正体は、それだった。
声音は間違いなくヒミの物なのだが、呼び方が違う。
(アイツは俺を……『明良様』と呼んでいたぞ?)
先日、早朝に訪ねてきた動力大師とヒミとに、お茶を供しながら、明良は説明したものだ。
自身の「明良」という名を。彼らは「ア・キラ」という「魔名」で勘違いをしているのだ、と。
そうして、動力の大師は「明良」と、その弟子は「明良様」と彼を呼んでくれるようになった。その説明以前も含めて、ヒミに「さん付け」で呼ばれた記憶は、明良には存在しない。
(呼び名が……こんな場面で、変わるものか?!)
当惑していた明良は、気付くのが遅れた。
目の前の氷の囲いが、一瞬にして消え去ったことを。
その機を知っていたかのように直後、ホ・シアラの平手が迫り、明良の腕を鷲掴みにしたことを。
「ッ?!」
「……これが、ギアガン大師さえも
「なんだと?!」
「……ハ行・
大師の手を振り払う
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