石動の魔名術と磊落な動力の大師 3
小屋ほどの大きさ、「カ行・
「……
「……ヒミ」
大師の
ヒミと呼ばれたその女は、白い外套衣でスッポリと全身を覆っている。彼女の「御師」とは違う、
白い肌に、黒髪の総髪。垂れた後ろ髪は雨に濡れて光沢を持ち、うなじの辺りの毛先から
淡い色の唇を結び、
「……御師、無関係の
「判っとる!
またひとつため息を吐いたヒミを置くようにして、カ行の大師は歩みを始める。
向かうは、土壁で囲われた
女も大師の後に続く。
だが――。
「……」
「御師……?」
動力の大師はその
「一度ならず、
ザン!
狂喜するように大師が言い放った直後、土の塊から白刃が突き出る。
その剣先は、覗き込むようにしていたギアガン大師の鼻先でピタリと止まった。
大師の
「……面白い小僧だッ!!」
「……
動力の大師が叫ぶのと、土の牢が崩壊するのとは同時だった。
突き出た刃は、
崩れ落ちる土くれ。
巻き上がる
土砂の
「……見下げるなよ! クソ魔名大師がぁッ!」
怒声は強い。
だが、少年の
大きく肩を上下させ、発汗と発熱で彼の周囲は
「……小僧、『
明良は絶え絶えの息の中、大師を睨む眼にただただ力を込める。
「……そうでもなければ、
黒髪の少年は、深く吸い、長く吐くと、ふん、と鼻を鳴らした。
「お前の……、大師の魔名術程度に、魔名など必要ない。俺の心さえあれば充分だッ!」
言い切り、明良は横薙ぎで払った。
嬉々として眼を見開く、動力大師の横腹目掛けて。
カ、カカ、カカカカン!
硬質な連続音が
だが、明良の
「……クッ?!」
「……ヒミッ! 余計な邪魔立てを!」
明良の白刃は、
大師の巨躯への軌跡上、突然に現れていた分厚い氷の板。その厚さの半分にも満たない位置で、「幾旅金」は静止していたのだ。
「御師、
「……なんだとぉ?!」
動力の大師が顔を背けるのにつられて、明良も横目を流した。
先ほど明良が突破した土壁から、「智集館」の内部に閉じ込められていた人々が散り散りになって出てきている。
気づけば、その者たちも含め、明良と大師たちとの周囲にはヒト
「引き際です」
「くぅ……」
明良の耳にギリギリと聴こえるほどに歯噛みすると、大師は明良に向き直り、「おい!」と
「小僧、
「……は?」
「この教区館の者かと訊いている!」
その問いの真意が読めない明良は、ただゆっくりとかぶりを振った。
「そうか」と
「では、
「……は?」
今度は完全に、意表を
「御師、いい加減にしてください」
「小僧が気に入ったわ! 名は?! 『カ行』でなくともよい!」
「御師!」
「『ア・キラ』か……。『
「あ、いや、俺の魔名は……」
「……
「……あ、オイ! ヒミ!」
「アキラ」の解釈を正しきる前に、動力の大師の巨躯は文字通り、希畔の大通りを滑っていった。ヒミと呼ばれた女はその後ろ、宙を漂い、白外套を雨中にはためかせ、
(飛んでいったということは、あの女も……『動力』の『
明良はその場にへたり込む。
緊張が解かれ、
(「氷使い」の邪魔がなければ、俺の『
明良は思い起こす。
渾身を絞った、最後の
白刃を捕らえた氷塊の盾、その氷の透ける先にあった、明良が狙った大師の横腹。
その斬撃目標には暗色をした
湿った土色の
(……届かなかった!)
大師はすでに対処していた。
氷壁が止めなくとも、彼の白刃は通らなかったことだろう。
無詠唱でなおかつ即時の魔名術。
動力の大師は、まさしく「
(こんなことで俺は、「
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