不埒な幻燈の大師と幻映の景色 2
「
「
口を
「……ひゃ?!」
不意に自身の身体が浮かび上がり、思わず声を出してしまった。
「あれま。女のようだってハナシだったけど、オスじゃないかい」
クミを抱え上げたのは、
(な、なんてこと……)
両脇から抱え上げられ、地に引っ張られるようにだらりと伸びたクミの
彼女の尾から耳の先まで、興味深そうに眺める幻燈の大師に、美名は怖れ
(クミを取られる動作に、まったく反応できなかった……)
美名は自身で、感覚は鋭敏であるとの自負が少なからずある。
その感知能力を
(『マ行幻燈』は、闘争に不向きな魔名術だと軽く見ていたのかもしれない。とんでもなかった……。『大師を敵に回すな』……。先生、
美名の緊張の面差しに、クミの黒毛の身体越しに気が付いた幻燈大師は、ニヤリと笑みを浮かべる。
「そんなに怖い顔しないでおくれよ。可愛い顔が台無しさね」
そう言うと、幻燈の大師は美名の膝の上にふわりとクミを戻してやった。
ほう、とひと息吐く客人のネコ。
「腐ってもこの教区を任されてる『
固唾を呑む美名に、膝上のクミがチラリと視線をくれる。
美名が小さく頷くと、クミは大師に向かって「クミよ」と名乗った。
「私の名前は、クミ。自分が『客人』かどうかは知らないけど、この姿は『ネコ』!」
「おお。喋ったよ!」
「わお。喋りましたね!」
妖艶な大師と奔放な「附名」魔名術者とが歓喜する様は、美名の目には、クシャの遺児、ヤッチが初めてクミと
その姿に美名は心中で踏ん切りをつけ、口を開く。
「大師様……」
客人の小さな姿から目を戻し、「ン?」と応える幻燈の大師。
「……僭越と断じていただいても構いません。よろしければ、ふたつほど、大師様にお伺いしたいことがあります」
「……なんだい。お嬢の方はかしこまってくるのかい」
見透かすような目で美名を眺める幻燈大師。
ふたりの沈黙にクミとカラペも黙ってしまい、少し気を揉んでふたりを見守る。
「……いいよ。なんでもお聞きよ」
先に折れたのは幻燈の大師だった。
「トジロ様……、『名づけのオ様』が大師様をお訪ねになったと聞きました。こちらにおられるのでしょうか?」
「ン? トジロかい……?」
目線を宙に少しだけ飛ばし、幻燈の大師は首を振った。
「ヤツは挨拶しに来たと思ったら、またすぐ出て行ったよ。行先も告げずにねえ」
それを聞くと、美名は少しだけ長く、息を吐いた。
だが、その反応がどんな心情を示すものなのか、「心を読む」魔名術者の筆頭、幻燈の大師にはすぐに察しがついたようだった。
「……魔名を手に入れたいのかい?
「……はい」
「なるほどねえ」と呟くと、大師は美名の目を見据える。
「アタシが『ア行』だったら、お嬢には魔名を授けてやる気にはならないねぇ」
大師の青緑の
これこそが「大師」なのかと目を背けそうになるのを、美名は堪えた。
「それは……どういう意味でしょうか?」
「お嬢は、魔名を何か、勘違いしてやしないかい?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます