晴の妹(後)

「……今日、泣いている女の子を、助けた」


 その囁き声は、誰の耳にも届かない。

 が通ると、町の者たちは怯えて逃げていくからだ。

 今、最も勢いのある〝青藍〟のリーダー、現の妹に近づく者などいない。


「今日、撃たれた男の人を、


 今日、銃で撃たれ、倒れていた男。町を騒がしている中心人物。

 愛が発見した時にはまだ生きていた。

 男はわずかに残った力を振り絞って、命乞いをした。

 でも、愛は何もしなかった。


「撃った方も、撃たれた方も、ギャング。ギャングはみんな悪い人。……悪い人間は助けないの」


 ふわりと風が吹く。空色の髪と長いスカートが踊るように揺れる。

 その時、少し遠くから声がした。護衛たちだ。愛を必死に探していたようで、慌ててこちらに走ってきている。


 愛の口角が、数ミリ上がった。


「愛は〝良い人間〟だけ助けるの。……愛のこと、ちゃんと見ていてね? 次男坊の二郎くん」


 言い終えるとすぐにいつもの気弱な表情に戻し、愛も護衛たちの方へ駆け寄っていった。


 

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