八つ当たり(4)

 1分も経たないうちに、この場は片付いた。


 血を流して倒れる男たちに、地面に座り込む佐綾。



「ごめんなさい、許して……!」



 彼女はカタカタと震えながら懇願している。

 その前に立っているのは、



「うざ」



 晴だった。


 無表情で佐綾を見下ろす晴と、涙目で晴を見上げる佐綾。

 その光景に、二郎は唖然としていた。


 あの合図の後––––晴が向かった先は、二郎ではなかった。


 晴は1人の男の頭部を尖った石で殴り、男が怯んだ隙に鉄パイプを奪った。

 そこからは、彼の独壇場だった。確実に相手の急所を狙い、体格差のある男たちを瞬く間に気絶させていった。それは見事みごととしか言いようのない動きで、二郎は自衛も加勢も忘れて見入ってしまった。


「うちは晴を喜ばせたかっただけなの! 晴だってお金が欲しいでしょ? 晴のこと好きだから、役に立ちたかったの!」


 晴は、肩に担いでいた鉄パイプを放り投げた。教会の壁に当たって金属音が鳴り響くと、佐綾は悲鳴をあげた。


「……あのさ。これでも一応、〝汚ねぇ金は使うな〟って、妹に教育してんだわ。だから俺が破るわけにはいかねぇんだわ」

「ひっ」

「消えろ。今度俺に話しかけてきたら殺すぞ」

「ごめんなさい!」


 佐綾は飛び上がるようにして逃げて行った。

 彼女の後ろ姿が完全に見えなくなると、二郎はおずおずと口を開いた。


「……あ、ありがとう」


 晴が二郎の方へ向く。唇が切れ、赤く滲んでいた。


「っ! 血が出てる……! えっと病院に……。あ、治療費は払います」


 たどたどしく話す二郎に、晴は舌打ちをした。


「くそが。余計な奴らもの連れてきやがって」


 彼は苛々したように吐き捨てると、気絶する男たちを避けて歩いていく。


(……どういう人なんだろう?)


 父の死を悲しむどころか、笑った。

 けれど、汚い金は使いたくないと、3人の男に立ち向かった。

 よく分からない。


「おい! 病院行くから、さっさと来いや!」


 少し離れた場所から怒鳴られて、二郎は急いで晴の背中を追った。

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