昔話(4)

〝場所を変えよう〟


 そう言った二郎に連れて来られたのは、広い竹林の中だった。


 緑で構成された世界は圧巻だった。風が笹の葉を揺らす壮大な音は水音にも似ていて、雨が降っているのかと錯覚しそうになる。


 杖をついて少し歩きづらそうな二郎の後を、花は無言で歩いて行く。


 しばらくすると、道の端に1体の地蔵が見えてきた。優しい顔をした地蔵だった。赤い前掛けをしていて、黄色い野の花と饅頭がお供えされている。


 二郎は、そこで止まった。



「……どこから話せばいいだろう」



 小さく紡がれた声は、確実に彼の独り言だった。しかし花は例の手紙をギュっと両手で握り、答えた。


「全部、教えてください」



 どうして貴方が兄の振りをして、この手紙を書いたのか。



「そこにたどり着くまでの全部を、聞かせてください」

「……分かった」


 二郎は頷いて、花の方を見た。





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