言葉(後)

「爺や。あの子のそばから離れないでほしい」


 花を部屋に帰した後、二郎は梟に言った。


「狸殿が、あの子に興味を持っている」

「……狸を野放しにして良いのですか?」

「狸殿と戦いたくはない。あの子から手を引くように話はしてきた」

「ワタクシはあの者を信用していません。……花さんはワタクシが必ず守ります。あなた様は狐に集中してください」

「……ありがとう」


 いつのまにか陽が完全に落ちていた。あたりに薄い闇が漂い、廊下の空気は冷え始める。


「おや? 二郎さま?」


 梟が首を傾げた。

 歩いていた二郎が、突然足を止めたからだ。


「どうされましたか?」

「…………元気かな」

「はい?」

は、元気にしているのかな」


 長く広い廊下には誰もいない。二郎の言葉を聞いているのは梟だけだ。


「……彼に会いたいですか?」


 梟が問うと、二郎は頷いた。


「毎日、そう思っているよ」


 答えて、また歩き始める。


 今日の主人あるじは本当によく喋る。


 梟はそう思いながら、二郎の後ろをついていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る