書店の亜麻屋
「ごめんくださいまし」
梟がガラス戸を引く。次の瞬間、ふわっと紙の匂いがした。
あまり広くない店内には、いろいろな形の本棚があった。背が高い物と低い物、横幅が広い物と狭い物、木の色が濃い物と薄い物。それらが「コ」の形に設置され、窓が塞がれている。ガラス戸からの光しか差し込まないため、店内は薄暗い。
「ごめんくださいまし」
梟がもう1度言うと、
「はいな」
若い男の声が返ってきた。次に、ガラス戸の正面にある本棚がギギギ……と音を立てる。
花は目を丸くした。まるで観音開きの扉のように、2つの本棚がこちらに向かって開いたのだ。その中央から出てきたのは、
「いらっしゃいませ」
男性の妖だった。年齢は20代前半で、愛想の良い色男だ。
(人間のピアスみたいなものかしら? ……お兄ちゃんもいっぱいピアスを付けていたなぁ)
「お待たせしました。どのような本をお探しですか……って」
男性は、花と梟を真っ直ぐに見た途端に、
「えええええええええ!!??」
大声で叫んだ。
さらに大袈裟に後退り、中途半端に閉じていた観音開きの本棚に思い切り背中をぶつけた。彼の整った顔は真っ青になっている。
「に、人間!? 人間がおる!?」
「こんにちは。ワタクシは梟と申します。今日は人間が使う教科書をいただきたいのです」
「え!?」
「こちらの人間のお嬢さんが使う物です。二郎さまの客人なのです」
「じ、じじじじじじ、二郎さま!?」
「えぇ。ですから教科書を……」
「どうかお許しくださいぃぃぃぃ!!!!」
「はい?」
彼の耳には、梟の話がどう届いたのだろうか。彼は本を売るどころか、何故か土下座をしてきたので、花と梟は呆けた。
「妖の監視役である近衛さまが来るということは、俺が何かやらかしてしまったんですよね!? 全く心当たりが無いけど申し訳ありませんんんん!! どうか封印とか討伐だけはご勘弁くださいーーっ!!」
「いえ、あの、ワタクシたちは」
「俺には3ヶ月前に結婚したばかりの妻がおるんです!
「だからワタクシたちは、ただ買い物に来ただけで……」
「ひええええ! お助けええええ!!」
目の前の男性の様子に、花の脳裏に過去がよぎった。
(……似ている)
男の様子は、10丁目の住人たちに似ていた。町の中でギャングに襲われ、泣きながら許しを乞う人の姿をよく見かけたものだ。そういう場面に出くわすと、兄は無言で花を抱っこして、足早にその場を立ち去っていた。
(二郎さまは怖くないのに)
あの人はギャングみたいに怖くない。無口で何を考えているのか分からないけど、花を気遣ってくれていることは伝わってくる。
ただ強い力を持って産まれたというだけで、どうしてここまで怯えられるのだろう?
「何やの? そんな大きな声出して」
胸がモヤモヤしていると、今度は後方から女性の声がした。
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