幻肢痛
「さて、改めてよろしくね、
「その呼び方あんま好きじゃないんだけどね〜」
「知ってるー」
「わー、相変わらずヤナ性格〜」
「あ、そういえば昇進なされたそうですね。おめでとうございます」
「おや、これは丁寧にどうも」
この間の極秘任務の成功により、廣田大尉は小佐に昇進し、自分は大尉に昇進した。
「こういうマメなとこが男ウケの秘訣かぁ」
「やめてください大尉。セクハラですよ」
「えぇこれがぁ?」
「ハハハ、ミラっちは固いから彼氏できないよ〜」
「それとこれとは別の話です」
何でこんな真面目な娘が戸高みたいな変なやつを気に入ったのか
そういえば今日はあいつは非番だな。今ごろダウンタウンで遊んでいるのだろうか。
「そうこうしてるうちに戸高は女ひっかけてそうだけどな」
「なっ……! なぜそこで戸高先輩の名前が出てくるんですかっ!」
「おっ。隼斗っち耳が早いねぇ。ソースはしずくかな?」
「まあ黙秘しておこうかな。双方の名誉の為にも」
「ぐぬぬ。私のプライバシーが弄ばれている気がします……」
「気のせい気のせい」
そういえばだが、なぜあえて陸路を車両で這い廻っているのかというと、これが一番痕跡を辿られにくいからだ。
量子の痕跡というのはかなり長い間残留する。そしてかなり遠くからでも探知することができる。
それに比べれば
「そういえば昇進ってどれくらいお給金あがるんですか〜?」
「んー、どうだろう。明細見てないから分からないな」
「え〜無関心〜。昇進嬉しくないの〜?」
「こんなときに昇進してもねえ」
「お給金が増えるのはいいじゃん!」
「いつ使うのさー」
「あれ、でも休暇日数も増えるんじゃなかったでしっけ」
「あんなの飾りだよ。実質休暇日数は寧ろ減ると思った方がいいかもね」
特に尉官のうちは事務仕事実働任務等々引切り無しに仕事が舞い込んでくる。他の部隊の尻拭いとか。なんで本来違う系統からの命令書がうちの部隊に来るのかと思えば直属の上司の昔の上司が付き合いがあって云々かんぬん。でも実際に任務を遂行するのは我々下の者だったり。自分より下に投げれる内容の物もあるが、特に私の部隊は特殊な能力を持っている隊員も多いため、逃げれない時も多々ある。なぁんで軍隊に入ってまでこんなことで悩まねばならぬのか。
「うへぇ、やだやだ。知りたくないオトナのハナシ」
「そうそう。女子供は知らなくていいのさ」
「あれ、でも三神ちゅ……大尉って私のお姉ちゃんと1つしか違わないんじゃあ……」
「……階級をわざわざ言い直したのは偉いけど年齢の詮索は褒められたものではないかなぁ」
「あっすみません!」
「以後気を付けるように」
「はい!」
初いねぇ。
っていう感想が年寄り臭いか。まあ煙に撒かれてくれるのはかわいらしいね。
「ミラちゃん、からかわれてるだけだよ」
「えっ、あっはい。……え?」
「野暮なこと言うんじゃないよしずく」
「かわいい後輩がいじめられてるのを黙って見過ごせない」
「先輩♡!」
「自分の年齢バレたくないだけのくせに」
「隼人っ!」
ちなみにしずくの年齢は僕と同「ひとつした!」……ひとつ下だそうです。実年齢は半年と離れていない気がするんだがな。まあ記録上ってだけで、私自身正確な日付は知らないというのもあるが。
それとわたくしめは御年「やめねっ!!」……年齢なんか幾ら言っても減るもんじゃないのに。強いて言えば増えるだけだぞ。
ふむ。まあいいか。
「そういえばだが、なんでさっきロンドン橋なんて流してたんだ?」
「……すみません」
「あっいや、別に咎めているわけではなくてだな。単純に興味だ。云いたくなければ言わなくて良い」
作戦行動中に流すべきモノとは思えない。ただなんとなく、で流すにしては悪趣味というか向こう見ずというか。
「隼人っちそれは」
「待って。自分で、言うから」
山下が庇いかけ、高梨が止める。確かな意思と覚悟を以って。
「……新鮮な痛みを、忘れたくないから、です」
新鮮な痛み、か。
青いな。
青いが、それが高梨の戦う理由なのだろう。
であれば咎める謂れはないだろう。
「解った。私も肝に銘じておこう。それはそれとして、部隊無線で流すのは辞めておけ。要らぬ反感を買うぞ」
「! はい! ……ありがとうございます」
良かった。あからさまな反乱思想とかじゃなくて。万に一つあるかと覚悟はしていたからね。
黙って聞いていた隣のしずくがおもむろに口を開く。
「ミラちゃん怒られると思ったでしょ」
「はい」
「隼人は人の痛みはわかる人だから」
「……はい」
別にここでゴマ擦られても査定は上がらないけどな。まあ素直に褒め言葉として、置き配くらいにしておこうか。それは素直ではないのでは、というお問合せには答えないことにしている。
「なーるほど。それが惚れた理由ってわけか」
「っ!!!」
「う「「わ」あっ」!」
いきなりタイヤがロックする勢いでブレーキを踏み込むのだから流石にびっくりする。
「そんなに図星だったのかー」
「いや、ちがっ」
「おいなんだ、あれ」
「えっ?」
今右手側の山肌の色が変わったように見えたが。
「こちら第2車両、全車両行軍停止。4時方向の山壁を量子干渉しないよう観測。データフィードバック」
「り、『了解』」
にゃーとなけば猫 和寂 @WASA-B
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