2章

破壊系

『——down, broken down.

London Bridge is broken down,

My fair lady. Build it up——』


趣味の悪い歌を流しやがって。


「誰や! こんなもん垂れ流しとんは!」

「馬場さん、気持ちはわかりますけどいきなり大声出さないでくださいよ。心臓に悪いです」

「あ、あぁ。すまんな」

決まり悪げに謝る馬場さん。


馬場龍樹、うちの隊長と同期らしい。

今回の作戦の突撃部隊の作戦指揮を務めるみんなの兄貴だ。

得意な能力系統は質量系。量子に構造情報を持たせ瞬間的に実体化させたりするたぐいの能力である。


まあそれはさておき。

何故馬場さんがキレているかというと、この組織の直接的発足理由——多くの隊員の戦う理由である5年前のテロで、他でもないロンドン橋が堕ちたからだ。

助手席に座っている三木原が振り返った。

「これ、流してるのは隣の車両の高梨だそうです。辞めさせますか?」

「……」


高梨か……意外だな。

自分と同じ第二特装部隊所属の後輩で、普段は寡黙で事務的なやりとりしかしない子だ。

何を考えているのか、はたまた理解できないことが多いが狙撃の技術はトップクラスであり、今回の作戦でも重要な任務を帯びている。

「指揮権限で通常回線切っとけ。士気に関わる」

「了解です」

三木原が指揮権限マスターコードで3号車の通常回線を切断する。

まあ、妥当な判断だろう。

偶に忘れがちだが一応軍隊だからな。

「アクティブセンサーに感! 八時の方向距離30に小型の量子反応感知! いや、増大しつつあります!」

30?近いな。

突然出現したということは量子ワープか?

「こっちの動きが察知されたんか? ヘイグス粒子はまだ散布していないんやけどな。たちまち各員戦闘準備。敵の勢力はまだわからんが、こちらの戦力を把握しているという想定で動くぞ! ええな!」

「『了解!』」

自分が乗っている第一車両及び第一班の任務は、前線の構築と維持、そして陽動だ。


我々うちら第一班は敵の足止めをする。第二班は索敵と戦力評価。 第三班は迎撃に専念せぇ。敵の攻撃は我々で食い止めるけぇな! よっしゃ掛かれ!」

「『了解!』」


トップハッチから馬場さんが身を出し、前方に手を掲げる。と、ほぼ同時に厚み5m高さ8m程の堤が左右50mに渡って\ /こんな感じで出現する。

相変わらず圧巻の構築速度だ。

これで敵の進路をある程度制御できる。破壊するなり迂回たるなり、あまりないと思うが正面から突撃するなり。


『高周波レーダー探知、兆候02、測敵照準4シフト5! 第一車両です!』

「了解」


馬場さんが大きく薄い2m壁を創り、その影で篠田がハンドルを切る。


壁を僅かに貫く爆発を尻目に抜けると第三班の過剰攻撃の前兆が目に入る。

「おいおい。やり過ぎだありゃあ」

「ったく、撃ちゃ良いってもんじゃないっす」

「しょうがないっすよ、あんな歌聞かされちゃあ」

そういえばそうだった。

まあそれはそれとして止めないと不味い。あれでは戦力評価もくそもない。

「自分が止めますね」

「おう」

量子干渉波展開、周波数4.9周差±1. 2にセット、干渉波強度13.5で投射。

着弾寸前の量子構造情報があらぬ変数を入力されて散乱する。


『何しやがる!』

『また三神か!』

『アラスカでらやれたハンナのかたきだ!』

『こちとら迎撃の指示受けてんたぞ!』

「やり過ぎだバカヤロウ。誰が殲滅しろと言った」

明らかに一人私怨が混じってるな。

『戦力評価終わりました。練度と兵装からみて、間違いなく第八から第十二、辺境警備隊です』

特殊部隊ではない、ということは何らかの定期哨戒網に引っかかったということか。

前回のこの方面の作戦は3ヶ月前だからその間に直接支配領域が拡大していると見て良さそうだな。


辺境警備隊が来たということは上への報告もなされているだろう。

となると、今回の作戦的には却って好都合か。

「ひとまず第三班、殲滅してええぞ」

『待ってましたァ!』

『飛びっきりのヤツをk

「但し! 量子強度6.0以上の情報構造体の使用は許可せん!」

『けっ』

『お情けくれてやんよ』

『御預けかー』

『おぼえてろよぉ〜』


明らかにテンションが下がっている通信の裏で、恐らく強度5.9ぴったりの飽和攻撃がなされているのは御愛嬌といったところか。

統合政府の傀儡くぐつに心の中で合掌。

願わくば一瞬で命が刈られたと。

『敵、沈黙、生体量子反応ありません』


「うし、作戦変更や。第二班、第三班はポイントS7を迂回しつつ作戦続行。第一班は当初の作戦通り・・・・・・・陽動任務にあたる。三神兄妹はスイッチやな」

『えぇー!』

「玲那」

『……はい』

「よっしゃ。敵さんが来る前に作戦開始!」

「『了解!』」


トップハッチを開け、重力加速度制御y-10.0m/s。

第二車両から同じく玲那が出てくる。

「がんばってね」

「死ぬなよ」

「勿論」

重力制御解除。

ハッチを閉めながらシートに座る。

「隼斗っち〜」

「よろしくね〜」

「三神さん、よろしくお願いします」


そういえばこの車両はガールズだった。

運転席にいるのが青山しずく、階級は少尉。後ろの二人が山下焔、高梨ミラ、階級は共に軍曹長だが実質尉官待遇である。彼女たちと玲那を加えた4人を、羨望とやっかみを込めてLAdYS4レディースフォーと呼んだりする。


『うし、作戦続行だ。潜入部隊の指揮は三神兄が取るように』

「了解。潜入部隊、進路08ポイントS7へ向かいます」

部隊通信を切る。ここからしばらく巡航だ。30分ほどでポイントS7に着ける筈である。


楽しい旅の始まりだな。

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