第2話

美奈の死にたい理由



鈴木美奈、高校三年生。私は普通に幸せになりたかった。



こんなことを書くと、とんでもない不幸を背負った人だと思われるかもしれない。



でも実際のところ、私はいたって普通に幸せな人間。

いや、いたって普通に幸せに見える人間、かな。


これまでの私は、ほどほどの都市部の中流家庭に生まれて、地元の公立に通い、県内で20番目以内に入るくらいのほどほどの進学校に進学。


なにごともほどほど、特別でも何でもない、いたって普通の人生。

つまらなく思う人もいるかもしれないけれど、私は自分の人生に満足している。

友達もそこそこいるし、彼氏もいたことがあるから恋愛経験もある。家族とも仲が悪いわけじゃないし、大事な人を失ったこともない。

だからこれからも、きっとこのままほどほどの大学に行って、ほどほどの会社に入って、結婚して、子どもを産んでって、そんなありふれた幸せを手に入れられるんだと思っていた。

大きな苦難を乗り越えて活躍している人や、夢を追いかけて努力し続けている人、キラキラのインフルエンサーや芸能人…。成功するとは限らないけど、夢に生きてる情熱的な人生。そんな人たちも素敵だとは思うけれど、私は今のままで十分幸せ。


今までは、ずっとそう思っていた。

他人も自分も、いろんな幸せの形があるよねって認められる自分を、素敵な人間だと思ってさえいた。


でも私はたった今、自分がそんな立派な人間ではないことを知ってしまった。






高校三年生の冬、私は地元の公立大学を志望校に決めた。

地元で就職するなら、ここで十分。毎年うちの高校から何人も進学しているし、特別大変な大学でもない。

もう一つ、ここの大学は推薦入試がある。私の成績なら間違いなく合格できるだろうから、推薦してあげる、と先生に言われた。

一般入試まで勉強し続けたくないし、合格が確実なら一般入試にこだわる必要もない。何より早く安心してしまいたい。私はこの申し出を受けることにした。

ほどほどで、でも安定していて。まさしく私の人生にふさわしい、正しい選択のはずだった。





結果は不合格だった。人生初の大きな失敗。一般入試もあるけれど、今から間に合うとは思えなかった。


幸せな人生を送るための、正しい選択肢を選んだはずだったのに。わたしはいったい、どこで間違えたのだろうか。




どうしよう、別の大学が正解だったのだろうか、それとも一般入試が正解だったのだろうか。そうやって正解を考えているうちに、急に同級生がうらやましくなった。判定が悪くても、どうしても行きたい大学だからの勉強しているクラスメイト。やりたいことを見つけようと、都会に出ることを目指すクラスメイト。大学を目指す生徒が大半の中、夢のために専門学校を目指すクラスメイトもいた。

自分の目標に挑戦する勇気が、うらやましかった。

正解だ間違いだなんて考えずに、自分の選択を信じて突き進む姿が、あまりにも眩しかった。




そして気が付いた。今、気が付いてしまった。私はただ、失敗が怖かっただけなんだと。ほどほどの幸せなんて言葉は自分を正当化するためのまやかしで、挑戦する勇気もなくて、努力もできなくて。そのくせプライドだけは誰よりも高いから、挑戦する人たちを、そして失敗して涙を呑む人たちを心の中でバカにしていたのだと。

挑戦したって、うまくいくとは限らない。そんなことは今までの人生で散々知ってるはずなのに、無謀な目標のために時間もお金も費やすなんてばかみたい。

自分の身の丈に合った幸せ、確実に失敗しない、挫折なくまっすぐな道のり。

世間でもてはやされる夢追い人なんかより、自分を客観的に見て、そんな道を見つけられる自分の方がよほど賢い。賢い自分は確実に幸せな、成功の道筋を歩めるのだと、そんな確信を持っていた。

























  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

虹色のラムネで空に橋を架けよう @hayakawa7

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ