虹色のラムネで空に橋を架けよう
@hayakawa7
第1話
ネットサーフィンしていたら、奇妙な掲示板を見つけた。
「死にたいひとたちのための掲示板」
死にたいひと、いませんか。あなたの書きたいことを書いてみてください。辛い思いを吐き出すのでも、日頃の鬱憤を晴らすのでも、日記を書くのでも構いません。
死にたいの程度は問いません。今すぐ死にたい。いつか死にたい。死ぬのが怖くない。死にたいと思っていた。頻度も回数も時間も、何にも問いません。
そんなことを考えているあなたは、そこらの人よりずっと深い考えを持っているのです。私はその頭の中を覗いてみたい。どうか私に死にたい理由を。
そして最後にひとつだけ。この掲示板に、死んではいけない。とだけは、絶対に書いてはいけません。
真理の死にたい理由
死んだペットは、虹の橋を渡るんだって。虹の橋の向こうのキラキラした世界で、大好きな飼い主さんを待ってるんだって。でも、人間も死んだら虹の橋を渡るなんて聞いたことがないや。
今日の私は死にたい私。
別にペットロスとかじゃないのよ。動物なんて飼ったことないもの。
何となくつまらない。ただそれだけと言えばそれだけ。だけど、ねぇ、想像してみてよ。急に自分が何者でもないなって気づいちゃう時があって、それじゃあ私、なんのために生きてるのかなと考えても、答えが見つからない。じゃあ、1度死んで生まれ変わったら、もっとステキななにかになれるんじゃないかしらって考えるのも、仕方が無いと思うの。
私はトクベツな人間って小さい頃は誰もが思ってる。私もそうだった。親に可愛がられて、何か出来るたびに褒められる。自分は世界一可愛いと思っていたし、世界中の人はみんな私のことが好きって思っていた。ほんとにそうだったら、その人はさぞ特別な人間でしょうね。でも、成長していくと気づいたの。私より可愛い子なんて沢山いるし、世界中の人に好かれるなんて不可能。なんなら、他人より優れた何かを持っている人はほんのひと握りで、それが努力で得たものじゃなくて持って生まれた才能な人はもっともっと少ない。
それに気づいてしまえば、世界はこんなにもつまらない。
これまでも色々と探してみた。特別な人間になる方法。
SNSで有名になろうと思った。名前も変えて、顔はあえて隠して、別な誰かを作り上げて、有名になったら種明かし。
実はあれ、私なんだ。
賞賛が目に浮かぶ。凄いね!かっこいい!自慢の友達だよ!
でもフォロワー1万人越えともなると、投稿のレベルが違う。行列の出来る人気のスイーツ、有名デザイナーの新作アクセサリー、全身ブランドで固めたコーディネート。
これで私と数歳しか違わないなんて、いったいどこのお嬢様よ。そのアクセサリー一つ買うのに、私は3ヶ月はバイトしなくちゃいけないのに。
うちは別に裕福でもなし、このアイデアは諦めた。
別に私が特別にならなくたって、特別な人の特別になればいいんじゃない。
誰もが羨む理想の恋人。才能豊かでイケメンでお金持ち。浮気なんてもってのほか。
こんなに素敵な人と付き合ってるの?
どうやって知り合ったの。どんな風にデートをするの。
きっとみんなに囲まれて、質問攻め。
私は俯き頬を染めて、向こうから告白されて…。って答えるの。
でも、イケメンに素敵な恋人がいるのはこの世の摂理、少女漫画みたいに地味でなんにも取り柄のない子がイケメンに告白されるなんて、現実には起こらない。なんなら、少女漫画の地味系ヒロイン達を、私は地味とは認めない。モブと比べて目のサイズ倍くらいある地味女がいるもんですか。
恋人のいないイケメンは、彼女を作る気がないか、性格にとんでもない難があるか。
これも現実的じゃない。このアイデアもお蔵入りね。
そうだ!当たり前のことをしなければいいんじゃないかしら。
女子大生、心を病んで自殺!ー若き命を散らせても伝えたかったこととはー
なんて、ドラマチックじゃない。
理由なんてなんでもいい。みんなが当たり前に歳を重ねる中で、永遠に時の止まった私。
同窓会には写真で出席。テレビ局が友達に話を聞きに来るのよ、生前はどんな方でしたかって。
テレビに出て、有名になって、歴史に残るの。その時私が生きて賞賛を浴びられないのは残念だけど、しかたないわね。
命を大切にしなさいって言うけど、自分の命なんだからどうしたっていいじゃない。
適当な社会問題でも選んで、この現状を変えるために世界に訴えかける方法がこれしか無かったって遺書を書いておけば完璧。私は間違いなく特別になれるわ。
ねえ、知ってた?大人になる前に自殺する人なんてありふれてるって。
いじめを苦に自殺したり、自分の未来に絶望したり、受験や就活に失敗したり。
若者の死因第1位が自殺って、どんな国よ。医療が発達して、子供が病気や怪我で死ななくなったからって、おかしいでしょう。国民みんな病んでるんじゃないの。
こんなに自殺してる人がいるのに、私はなんにも知らなかった。つまり、私が死んでも同じってこと。どんな理由であったって、ちっぽけでなんの力もない子供が1人死んだところで、この世界はなんにも変わらない。
当たり前に明日が来て、せわしなく日々が過ぎてゆく。私のことは地方紙の隅っこにちょっと載って、コーヒータイムの主婦や縁側のご老人に、あらかわいそうって思われておしまい。
いじめが原因で何人自殺しても、懲りずにまた死んでるじゃない。
学校が隠してるのも含めたら、もっといるのかもね。
それって、誰が死んだところで何も変わってないってことでしょう?
なんだ、つまらない。死んだところで特別になんてなれないじゃない。
でもね、ますます死にたくなった。人の命は何よりだいじって、子供の頃からずっと言われてきた。
でも現実は、人の命は何より軽い。亡くなったところでほかの人は困らないものね。そこらへんの人の命と自分のスマホどっちが大事かって言われたら、正直スマホじゃない?それじゃあこんな世界なのも、当たり前といえば当たり前かもしれない。
こんな世界で生きててなんになるのかしら。そう思ったら、ますます死んでしまいたくなった。
どうして今私が生きているのかって?
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