第55話 エルフィス②

 険しい顔をしたエルは、静かに、話し始める。

 先ほどまでの砕けた雰囲気はふっと表情をかえ、どことなく緊張感が漂っていた。


「多分じゃが――、わしはおぬしらとは違う世界線にいた、もしくは、おぬしらが異なる世界線から来たというのが“答え”じゃろうな」


「「――ッ」」


 俺と猪貝はいきなり告げられた衝撃の事実に言葉が出なかった。

 脳が理解することを拒み、エルの発した言葉が、紛い物まがいもののように思われた。


 ――が、以外にもその状態は解消できた

 だって、ダンジョンなんてものがこの世界に生まれた時点で、そもそも疑うってこと自体が虚しいことなのだから。



「な、なんでそんな結論に?」

「別にこれといった確たる理由というものはないがの。ただ、話を聞いてる限り、おぬしらとわしの常識の違いというのがあまりにもありすぎると思っての」

「例えばどんなところが?」

「まずは、――おぬしらのいう"すきる"というものじゃな。儂も同じように魔法とかを使ってはおるが、そんな呼び方なんぞしとらんしの。まぁ、これは根拠としては弱いがの」


 やっぱり、あの反応は知らなかった、ということであっていたのか。


「二つ目、じゃ」


 そういうとエルは、俺の顔の前に指を二本ビシィっと立てる。


「おぬしらと、わしの使う言葉が違っておるということじゃな」

「えっ? 今きちんと会話できてるじゃん」

「これは儂の能力のおかげじゃ。【翻訳】という能力が発現しておる。こいつは常時発動しているから気付かなかったのじゃ」

「すっげーー」

「ま、まぁ、わしをほめるのはそこまでにしておいてじゃな……」


 すごい照れているエル。白雪のような頬がだんだんと紅に染まっていくからすぐにわかる。


「最後は、まぁこちら側の話なのじゃが、わしのいた国、というか世界には“転移”の技術があるということじゃ」

「それが、何の関係が?」

「おぬしらの話に出てきたゲートというものがあるじゃろ? その特徴は間違いなくわしらの世界にあるものじゃ。そしてその技術はこの世界ではまだ解明化もされてないし利用もできていないんじゃろ?」

「うん」

「そしたら、技術があるわしの世界と、技術がないおぬしらの世界は別物というふうにも考えられんかの?」


 そうか、だからゲートのシステムとかをこちらの世界では解明できなかったのか? 

 でも、何でダンジョンやここにいるエルが俺たちの世界に転移してきたんだ?


「じゃぁ、なんで――」

「おぬしの聞きたいことはわかる。が、それに関してはまだ答えられない。というかわしもよくわかってはおらんのだ。第一わしがこの世界に来たってわかったのだって、おぬしらにあったからであって、出会わなかったら気付けなかった。じゃからその点に関しては感謝しておる」


「この世界に来た理由はいいとして、エルはなんでこんなところ洞窟にいたの?」

 猪貝が、ちょこっと手を挙げて質問をする。


「いい質問じゃな。じゃが、答えは単純じゃ。住み心地がよかった。それだけじゃ」

「あんなモンスターがいるのに?」

「あいつは可愛らしいもんじゃ、なぜならばわしのペット兼昼飯じゃからの」


 ペットと昼飯って両立するもんなのか……?

 ならんじゃいけなそうな単語が並んでいて、どことなく気持ちが悪い。


「ならば、倒して昼飯に――。と、思ったがおぬしらが倒してしまったんじゃったの。あいつの身はおいしいからのう。残念じゃ」


 エルはその言葉の通り残念そうに大きくはぁ、とため息をついたのだった。

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