第54話 エルフィス①
「やっと起きたかの」
俺が目を覚ますと目の前には少女がいた。ちょこんと置物のような少女だ。
上からのぞき込むようにして俺の顔を見ている。
先ほどの出来事は夢ではなかったようだ。
だって、横を見てみたら部屋の少し遠い所にいる猪貝が目を合わせてくれないんだもの。
「えぇーと。あなたはどなたなんですかね?」
おそらく助けてもらったであろう人にいきなり名前を聞くのは失礼なのは百も承知だ。けど、こんなしゃべり方の少女、不思議に思うのは必然だと、自分を正当化してこう質問をする。
「儂は――、エルフィス=シャフじゃ。めんどくさいからエルとでもシャフとでも呼ぶがよい」
エルフィス? 外国の方なのか?
それにしては日本語がうまいな。
「じゃぁ、お言葉に甘えて、エルって呼ばせてもらっていいですかね」
「うむ。で、おぬしは――」
「田中秀明って言います。めんどくさいのでシュウでもシューメイでもなんでも。何ならお前でもいいです」
「じゃぁ、お言葉に甘えてお前でいいかの?」
――マジで? 冗談で言ったんですけど。
「ハハッ。冗談じゃ。冗談。今まで通りおぬしって呼ぶのでいいじゃろ? もしかして名前で呼んでほしかったとかあるのかの?」
からかうようにニヤニヤと俺のほうを見てくる。
俺もなんだか恥ずかしくなって目をそらす。
「うぶじゃの。からかいがいがあるわい。あとは……、そうじゃな、かしこまって話さなくてよいぞ。なんか歯がゆいからの」
なんか気持ちが悪いけど、本人がそういうならいいのか?
「で、多分だけど、俺は助けてもらったってことでいいんですかね?」
「そうじゃ。儂に感謝せい」
「ありがとう」
「そしてその子にもじゃ。おぬしが眠ってる間看病しておったのはその子じゃぞ」
確かに、誰かに見守ってもらっていたような夢をみていた――いや、感覚があったのはそのせいだったのか。確かに目を移せば、冷たいタオルとかがあるし、何かしらの滋養によさそうなものまでおいてある。
「――ありがとう。猪貝」
「べ、別に仲間だから看病しただけよ。もし私が同じようなことになったらちゃんとしてよね」
「でじゃ、わしが解せぬのは、なぜおぬしらがこの洞窟内にいるのか、ということじゃな」
一通りのイベントを済ませて、尋問タイムが始まった。
「それは――。このダンジョンができたばっかで、アイテムの回収ができる可能性があるから」
「だんじょん? あいてむ? 何のことじゃ?」
エルの様子は、とぼけているというよりかは、明らかに知らないという様子だった。
でも、こんな時代だから、ダンジョンの存在なら子供だって知っているくらいだから、知らないってことはないだろう。
「まぁ、わからんからいい。次の質問は、これをどうやって手に入れたのじゃ」
そういうとエルは、懐から黒く、大きな球を取り出してくる。
そして俺はそれに見覚えがあるし、知ってる。
「ステータスボール⁉ どうしてそれを――?」
「儂がおぬしを助けたときに一緒に回収したんじゃ。これをどこでどうやって入手したのか説明せい」
「説明するっつっても信じてくれるかどうか」
「ウダウダ言っとらんで早く言わんか」
「それは――」
俺は、自分のスキルについて話した。するとその少女は先ほどと同様にスキルという単語を知らなかったらしい。そして今までにやってきたことや、このダンジョンでの出来事を話し、この黒い球が、おそらくヌシがからドロップしたものだということを伝えた。
「ふぅむ。なんとなく現状がつかめてきた」
そう静かにエルはつぶやいたのだった。
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