第47話 潮騒ダンジョン⑧
大体、水の中にいるってことは。そこがボスモンスターのフィールドってことで、そいつが有利になるようになっているはずだから、水の中で戦うってのは、一番ないんだよな。第一水温が低いせいで、俺がいつも通りのパフォーマンスを発揮できるわけでもないからな。
となると、ボスモンスターを何とかして陸上に連れ出す、もしくは水面に顔を出した一瞬を狙うのが定石か?
「うーーん。そしたらやっぱり、猪貝の作戦を採用しようかな」
「えぇっ? いいの?」
先ほど却下されたばっかりなのに時間を全く空けずに今度は採用を伝えられれば誰だって驚く。
「うん。あいつを挑発してみて、どう反応するのかをのか知りたいからさ。うまくいけば攻撃に活用できるかもしれないし」
俺の話を受けて、猪貝は、弓を構えると素早く何発もの矢を繰り返しボスモンスターがいる方向へと放つ。ゆったりと山なりに、弧を描くようにして飛んで行った。まるで、そいつがいる方向へと吸い寄せられるように飛んでいく。
ただ、相手がどこにいるかわからない俺からすると、単に虚空に向かって無駄打ちしているようにしか見えなかったけど。
「見えないけど、こうすれば見える。【反響定位】」
【反響定位】をここで使うことにより、猪貝の放った矢の位置を捕捉することができる。
暗闇を飛んでいるであろう矢の位置を把握することができ、そこからどのあたりにそのボスモンスターがいるのかの予想もついた。
「ほんとに浮島の近くにいやがるな」
「でも、こんなことで挑発になるのかしら?」
「ボスモンスターだからな……。そんな簡単に物事が進むとは――」
すると、俺の【反響定位】マップ上で、水面があわただしく動き始めるのがわかった。平穏そのものだった水面も沸騰した水の如く、脈動を開始する。乱雑に動く水紋はボスの心持ちを反映してるかのように荒々しく動く。
「めちゃくちゃ怒っていらっしゃるぅぅ」
「えっ? どーなってんの? 私にも教えてよ」
「だから――」
ザッパーーン。
そして、ボスモンスターが大きく飛び跳ねたであろう音が、ダンジョンの壁に反響し響き渡る。その音は、雄大さを感じさせ、または警告のような威圧感も備わっていた。
飛び跳ねた際に、なにかのスキルなのか、はたまた、水しぶきを思いっきり飛ばしただけなのか、猪貝の矢をすべて撃ち落としたのが【反響定位】マップ上で知覚できた。
その際に、俺にはそいつの姿がすべて見えた。体の大きさは5メートルほどの大きさで、全体的に細長い体つきになっている(とはいっても、5メートルもあるのでそれなりの太さだが)。鰓付近にある小さなひれと、お腹から尾まで続く長いひれ。この姿を俺はどこかで見たことがある。
「ボスの姿が見えたっ。こいつは――、めちゃくちゃでかいウナギだ」
「で、そいつは何やってんのよ? すっごい音が聞こえたんだけど?」
「飛び跳ねて……。いや、こっちに来てるな」
水の流れ、水面があわただしく動く様子からすごい勢いでこちらに近づいているのがわかる。
「図体がでかい奴は速度が遅いってのが常なんだが――。少し早すぎないか?」
「ほんとだ。あと10メートル」
【察知】によって距離を把握する猪貝。でも、その把握よりもボスモンスターは早く移動する。
「いや、5メートルだっ」
もうすぐそこまでボスモンスターがやってくる。
「ただ、ここまで来たとはいえ、さすがに水から出てこられないだろ……」
油断していたのかもしれない。ここはダンジョンでどんな奴がいるかわからないのに勝手に決めつけてしまっていた。
俺の甘い考え、想定を嘲わらうかのようにボスは次の動きへと移る。
ザッパーーン
再び、躍動し、大きく飛び跳ねるボスモンスター。そして地面へと見事なランディング。
「マジ、かよ。陸上もいけんの?」
俺たちの目の前には姿をあらわした大きなウナギ――、まさにこの湖の主ともいえるモンスターが立ちはだかった。
そして、主は、先ほどの興奮がなかったかのように毅然と俺たちの立ち、高いところから俺たちを静かに見下ろしていた。
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