第46話 潮騒ダンジョン⑦

 俺の頭の中にあるマップをもとに移動することにより迷うことなく湖まで到達した。


「とりあえず湖には到着したな」

「えぇ、でも、こんな地下に、こんな湖があるなんて……。ダンジョンって不思議ね」

「まぁ、そんなこと言っちゃったら、ダンジョンだって、俺らのステータスだって謎ばっかじゃん」

「確かにそうだけれども……、なんかロマンを感じない? ってことよ」


 ロマン。確かにそうかもしれない。何か月前の俺ならこんなところまで来られやしなかったのに、いま、俺はここにいる。


「ありがとうな。猪貝」

 自然と口から零れ落ちた言葉。

「なっ。何よいきなり――。こ、こちらこそありがとうなんだからね」


 お互いにもじもじして、他の人から見たら何やってんだろこいつらって思われるんだろうな。

 まぁ、俺たち以外誰もいないから問題ないんだけどね。

 

◎ ◎ ◎ ◎


 謎のありがとうの言い合いを終えて平常運転に戻る。


 俺たちの目の前には、すべてが見えているわけではないが湖が広がっているというのだけはわかった。

広い空間で、何の音もしない、唯一聞こえるとすれば俺たちの足音だけという状態は、神秘的でもあり、不気味でもあった。

湿度が高いせいか、地面がかなり湿っぽくなっており、気を付けないと、足をとられ湖に落ちそうになる。


「俺の【反響定位】だと、モンスターらしきものはいないんだけど、猪貝の【察知】だとどう?」


 俺のスキルは水中に対応できない。が、猪貝の察知は、姿形がわからないのみで、モンスターの存在を察知するというだけならどのような環境下でもできるから便利っちゃあ便利だ。


「ちょっと待っててね。【察知】」


 猪貝がうぅーんと唸りながら、スキルを使う。それを横目に俺は目の前の湖に手を浸けてみる。ただ、どんな湖の水がどんな液体なのかもわからないので一応【ヌルヌル】で手の表面をコーティングしてから浸ける。


「つっめた。こんなに温度低いと泳いでいくわけにはいかねーな」


 湖から手を出すと、あまりの冷たさから指先の感覚がなくなる。

 まだ水温が高ければ泳いでいくという案もあったけども、これほどまでに冷たいと、泳ぐという案はモンスターのいるいないにかかわらず真っ先に却下になる。


「わかったわ。一つだけ、いや、一匹だけ反応があったわ」

「これだけ広いのに一匹だけか」


 ダンジョンのかなり深いところで、しかもここまで広い空間に一匹だけしかいないモンスター(猪貝の察知スキルの範囲がそこまで広くないからほかにいる可能性も否めないが)。

これの意味するところと言ったら一つくらいしかないだろう。


「そいつがこのダンジョンのボスモンスターだっ。多分……」


 ボスモンスターだ、とか断定しておきながら、多分と後に続けることで保険をかけておく。


「で、そのモンスターはどのあたりにいるのかだけわかる?」

「うーん。大体ここから30メートルくらい先かなぁ」

「マジかよ」

「えっ、どーしたの?」

「いや、大体そいつがいるあたりに、浮島のようなものがあって、そこに下へと続く道があるんだよ。となると、そいつとの戦いを避けることはできなさそーだな」


 できれば見たことがないモンスターと戦うのは避けたかった。が、やはりというか、簡単には下に行かせてくれないのが現実だと再認識させられる。


「戦うにしても、そいつがどんな奴だかがわかれば対策の立てようがあるのにな」

「一回攻撃してみればいいんじゃない?」

「どうやって?」

「これよ」


 猪貝は嬉しそうに、自慢げに自分の武器である弓を俺に見せつけてくる。


「私には、相手の居場所がわかってるからそこに向かって矢を放てばいいんじゃない?」

「当たるか? 30メートル先って。ほら、真っ暗だし」

「数うちゃ当たるっていうでしょ」


 なんとまぁ、原始的な方法だろうか。


「ただ、それで倒せるんだったらいいけどさ。倒せなかったら興奮させて終わりになるじゃん。そこんところについてはどう思う?」

「むぅぅぅ。じゃぁ、逆に聞くけどなにか考えでもあるの?」

「ないっ。今んところお手上げ状態。まず、移動する方法がないでしょ。で、二つ目は、そいつを倒す方法もないでしょ」


 どうすればいいのか? 

 猪貝の案の再考を含めて考えを巡らせていた。


 

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