第45話 潮騒ダンジョン⑥

 さらに下に――、階層という概念もなくなるんじゃないかとも思えるほどに下り道が長く続いていく。あまりの長さで、どれほど潜ったかもわからない。

 でも、その坂もいつかは終わりを迎える。

 ここに到達するまでに下り一辺倒だった道もその勾配を失い、平坦な道へと変貌する。下り道というのはかなりのスタミナを使うから、久しぶりの平坦な道は、今までかなり歩いてきた俺たちにとってはご褒美みたいな状態だ。


「やっと下りの道が終わったわね」

「あぁ、いつものダンジョンなら、こんなに坂が長いことはないんだけどな」

「だよね。なんか不思議だわ」


 普通のダンジョンは、ビルが地面にうまっているようなもので、階層ごとに短い坂もしくは階段が存在しており、それを下ると下の階層に移動できる。で、ダンジョンはそんなに天井が高くないからふつうは、その下りってのは短いはずなんだが、このダンジョン、特に今俺らが下ってきた道はなぜか長かった。


「こんだけ坂が長いってことは、めちゃくちゃ広い空間があるってことを示しているのかも……」


 なんてやり取りをしているうちに、細かった道が開け、広い空間に到達した。


「なんだここ……? 広すぎんだろ」

「あんたのその炎魔法、最大火力なんでしょ。それで全然照らせないってどれくらいの大きさなのよ」


 猪貝の言う通り俺は最大火力で炎魔法を出している。のにもかかわらず、端まで照らすことができない。ということは先ほどの予想通りここがめちゃくちゃ広いってことなのかもしれない。


「だったらここで使うしかねーな。新品、出来立てほやほやのスキル【反響定位】を」


 ただ、初めて使うのでどんな感じになるのかわからなくて少し怖いけど。


「【反響定位】」


 自分を中心にして何かがブワッと円状に“何か”が広がっていくのを感覚として感じた。ただ、別に何かが見えた、とか何かが聞こえたとかじゃない。

 しばらくたつと、広がったその何かは、壁やモノなどに到達し、反響する。そして俺のもとに戻ってきた”何か”は自分たちが接したその存在の全貌を俺に教えてくれる。


「やばい、結構クリアーに見える」


 見える、というのは正確な表現でない。べつに目の前に見えているわけではないのだから。

 どちらかというと、感じる、知覚するというほうが近いのかもしれない。

 壁からひょっこりと生えた岩の微妙な凹凸であったり、そこに張り付くコケの様子、水面の微妙な水紋や、天井から今まさに地面へとダイブしようとしている水滴の存在から何まで手に取るようにわかる。


「これは……すっごいな」


 俺の目の前にはそういったものが立体感の持ったマップとして感じられた。そして、俺たちの想定通り、今いる階層はとてつもなく広い空間ということがわかった。


「ちょっとめんどくさいのかもしれない。このダンジョン」

「どーゆーこと?」

「この先に大きな水たまり、いや、水たまりというか、湖のようなものが広がってる」


 そう、俺の頭の中には、大きな湖の存在を発見してしまった。ただ、【反響定位】のスキルレベルが低いのか、もしくはもともと水の中までは分析できないのか、湖の中に何がいるとか、どれくらいの深さなのかを認知することは現状、不可能だ。


「俺のスキルだと、水の中までは知覚できないっぽいな。スキルレベルを上げればいけるのかもしれないけど……、もうミズコウモリもいないし、上げらんないもんな」

「でも、行くんでしょ? ここまで来たら」

「あ、あぁ。そうだね」


 この先に進もうとすれば湖を乗り越えなければならない。

 ここにきて大きな壁が俺らの前に立ちふさがった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る