第43話 潮騒ダンジョン④

「こいつみたいに、魔法とかスキルのほうに能力振りまくってるやつってのはそれ以外の能力値が低いってのが相場なんだけど、どうかな?」


 ミズコウモリに関しての情報は、魔法とスキルが多いということしか持っておらず、それ以外の情報を持ち合わせていなかったので、今までの経験や情報から帰納法的に導かれた答えだ。だが、憶測ベースであるがゆえにこれが正しいとは言い切れない。


「あんたの予想通りだったら、魔法だけ気を付けてればいいってこと?」

「いや、あとは噛みつき攻撃に気をつけなくちゃいけない。噛みつき攻撃自体はにダメージがそこまでないんだけど、付属の状態異常が厄介なんだ」

「つまり、気を抜くなってことねっ」


 とはいえ、どうしたものか? 姿が見えないんじゃ攻撃を当てることは容易ではないしな……。


「悩んでても仕方ないしな。とりあえず、試しに【炎呪文】ッ」


 空いている右手を上げ、天井に向けて魔法を唱えると、炎が勢いよく噴き出てくる。あまりの勢いに天井が焦げ、少しだけ変色する。が、魔法には俺のスピードは関係ないために簡単によけられてしまう。

 炎自体に勢いがあるが、それでも天井に届くころには狭い範囲の攻撃に収束してしまい、広範囲に散らばることのできるミズコウモリたちには当てられそうもない。

 同じように、隣でも猪貝が使える唯一の遠隔攻撃である弓を用いて攻撃しているがすべて避けられてしまっている。


「やっぱりな。魔法にはスピード乗らないからふつうによけられちまうんだよな。しかも先のほうしか届いてないから、せっかくの炎魔法の特性を生かしきれてない」

「こっちもダメ、なにかこう一部だけじゃなくて一気に全体に攻撃できる方法があればいいんだけど……」

「そしたら……、うん。やってみっか」

「何を?」

「いいから、見てろって。一旦暗くなるかもしれないけど」

俺は左手の炎を解除してから

「【炎魔法】と【風魔法】の合わせ技だっ」

 すると、手から出た炎を風魔法が広範囲に拡散し、また、風魔法によって炎に適切な量の酸素を供給したことにより勢いが増す。

 天井の一部分を焦がすにとどまった炎は、今度は姿を変えて天井全体へと広がっていた。


 逃げ場を失ったミズコウモリのうちの何匹かは俺の魔法にやられ、ぼとぼとと天井から地面へと落ちていく。そしてそれがステボへと変化する。



 そのうち何匹か逃げ出したようだが、仲間をやられた仇討ちか、逃げるのをやめて攻撃に転じる。暗闇の中から、ビュンと何匹ものミズコウモリが一気に襲ってくる。

 ただ、この攻撃に関して俺は何にも怖いことはなかった。俺が襲われるというにはスピードが上がりすぎていたのだ。


「近くまで来たのが、お前らの運の尽きだな。さっきはいきなりだったから対応できなかったけど、接近戦ならまけねぇぞ」


 俺は剣を振り下ろして、一匹ずつ丁寧に倒した。猪貝のほうはスピードに対応しきれなかったようで、何とか【魔空壁】を張ることでダメージを負うこともなく、デバフもくらうことなくこのミズコウモリたちの最後のあがきから逃れることに成功したようだった。


 俺に斬られたミズコウモリたちも瞬間的にステボ化して地面にぼとぼとと落ち、あたりには謎の黒い球が落ちまくっているという、他の人が見たら困惑するだろう光景が広がっていたのだった。


◎ ◎ ◎ ◎


 地面に落ちたミズコウモリのステボを回収するのが地味に一番大変だった、というのもステボの色が黒で、暗闇に紛れてしまったからだ。加えて水たまりの中にもステボが落ちたのだが、炎の光が水面に反射することで、水の中を確認するのが大変だった。


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