第42話 潮騒ダンジョン③

 五階層まで来ると地面が所々に水たまりができており、気をつけて歩かないと足を滑らせて転びそうになる。鍾乳洞のような環境になっており、気温が下がり、服を着こまないときつくなってきた。


「うおっと、そこ水たまりあるから気をつけて」

「ほんとだわ」

 

 避けるために水たまりに目を移すと、水面に反射して”何か”が俺らの後方で動いているのが確認できた。そしてその”何か”が、天井から俺たちのほうへと向かってくる。


「猪貝、危ないッ。こっちにこいっ」

「きゃぁっ」


 猪貝の手をぐっと引っ張り、俺の後ろへと移動させる。

 剣を抜き、その何かに対して振り下ろす――。が、その対象物俺の想定より小さかったのと、いきなりの攻撃だったことから、対応しきれずひらりと避けられてしまう。


「くそっ。片方の手がふさがれてるせいで、うまく剣を振れない」


 しかも剣を振るたびに、明かりを灯す左手が震えるせいで、炎の光があちらこちらに向いてしまい対象が見えなくなったりする。


「ギィ、ギィ」


「何よ、この声。なんか不快な音なんだけど」

 猪貝はその音から逃れれようと両手で耳をふさいぐ

「この声は……」


 その対象は何かに怒っているのか威嚇音――、いやどちらかと言えば俺の縄張りに入るなという警告音を発する。

 だが、相手がどんなことを言おうと探索をやめるつもりはないから警告音を無視して、その場にい続ける。


 すると、だんだんとその警告音が大きくなったかと思えば、その音はだんだんと増え始め、大合唱のようにまでなっていた。

 その警告音に加え、独特な羽音――、鳥が飛ぶときのようなバサッバサッという音ではないものの何か羽のようなものを動かす音が聞こえてくる。


「しまった。こいつらちっちゃい癖に強気だと思ったら、そんなに数がいんのか」


 対象物は確認できないが、その声と羽を動かす音の多さでなんとなく数は把握できる。

 そしてそいつらは光から逃げるようにして動いているせいか、その全貌を確認することができない。


「そろそろ姿を見せてくれたっていいんじゃないのか?」


 天井付近にいる何かに話しかけてみる。

「そんなこと言ったって通じるわけないじゃない」

「だよな。だったら――」


 左手の炎を消してから


「【炎魔法】最大火力っ」


 スキルレベルが低いけれど、できる限りの力を込めた炎魔法。先ほど調整のコツをつかんだおかげで最大火力を出すことに成功する。

 天井にまで届いた炎は飛び交う”何か”の正体ををはっきりと俺らの目に映した。


「お前らは……」


 目の前には蝙蝠のようなモンスターの大群が天井にびっしりとはっついており、あまりの多さに天井にぶら下がることのできなかった蝙蝠たちが飛んでいたのだった。

 それは群れるというよりも蠢くという言葉のほうがあっているのかもしれない。


「うぁぁぁぁ、きっもーーい」

 再びダンジョン内には猪貝の叫び声がこだましたのだった。


――――――――

ミズコウモリ


水の多いところに生息するモンスター。基本的にはコウモリと一緒でエコロケーションを使うことで暗闇でも獲物の位置を確認することができる。繁殖能力が異常に高く、一回の繁殖で20匹ほど産み、それを何回か繰り返すために数が多くなっている。使う魔法は【風魔法】、【毒魔法】など多数の魔法を使い、それ以外にも噛みつかれると、個体差はあれど【麻痺状態】になることや【回復阻害】などの弱体化スキルを発動することもある。

そのくせ、とれるアイテムはないため、出会ったら逃げるのが得策である。


――――――――

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