第39話 野良ダンジョン
一般にダンジョンが出現したら、国のダンジョン管理の担当省庁に報告する。すると一か月くらいかかってから国から調査のための探索者団が派遣され、その間はダンジョンに入れないようになる。で、その調査が終わってから危険性でランク付けされ、その後一般の探索者でもはいれるようにするのが今のシステムだ。
一か月もかかってしまうのは国のシステムが悪いから、というわけではなくて、それ以上にダンジョンが出現してしまい、追いつかなくなっていることと、だれも潜ったことのないダンジョンはどんなモンスターがいてどんな危険があるのかわかっていないから慎重に探索せざるを得ず、時間がかかってしまっているのだ。
そのため国のランク付けを受ける前のダンジョンや、報告されてない状態のダンジョンもある程度存在しており、そういったダンジョンのことを野良ダンジョンと呼んだりする。
じゃぁ、調査を終えてないダンジョンに潜ることは違法なのか? というと、そうではない。別に潜っても問題ない。ただ、自己責任で潜ることになる。ダンジョンの保険も効かないし、もし行方不明になっても、公的な探索者を派遣することはない。その代わりにメリットが二個あって、一つはランク付けされておらず、入場規制がかかっていないことから誰でも潜れるということ。もう一つは、最初にダンジョンを完走したものにはダンジョンの宝、多くの場合は武器や防具が手に入るということである。
ダンジョンの一つの機能として、本来は宝を守るというのがあるとされている(ただこれに関しては研究が進んでいないために断定はできないらしい)。そしてその仮説に基づくと、ダンジョンの中でモンスターが生成され、外敵から宝をとられにくくしているというのが現状で最も有力な説になっている。
で、その宝は一つしかないもので、基本的には最初にダンジョンを踏破したものだけにしか手に入らない。だから多くの場合は国の探索者団が最初に踏破するから、国が回収しているということになっている。現にステータス付与水晶だってもともとダンジョンから入手したアイテムで国の保有するものだ。
たまに一般の市場でもアイテムらしきものが流通することがあるが、真贋がわからないし、大体が高い値段で取引されているから手に入れるのが難しい。
というわけでそろそろ、俺たちもアイテムが欲しいということで野良ダンジョンに潜ろうとしていたのだ。そして野良ダンジョン出現の情報(主にネットの掲示板)をもとにしてここまでたどり着いたのだ。
「女将さんっ。このダンジョンにはまだ誰も入ってませんよね?」
「私の知る限りでは、ね。ずっと見てるわけにもいかないから、実際のところはわからないけど……」
「ありがとうございます」
「気を付けてくださいね。野良ダンジョンって危険らしいって聞くこともあるから」
女将さんは心配そうな表情を浮かべてこちらを見つめてくる。
そりゃそうだ。自分のところでダンジョンができてそこで何かあったら評判も落ちるし、自分の店の敷地で何かが起きたという事実が起きるのを避けたいというのがあるのだろう。
「女将さん。心配しないでください。何か起きそうだったらちゃんと逃げてきます。スピードだけは一流なんです」
基本的にパーティメンバー以外の他人にはステータスを教えないというのが暗黙のルールとしてあるけども、今回は他人にまで迷惑をかけるわけにはいかないから特例だ。
「まぁ、ほんとだわ。でも、気を付けてね。油断してると大変なことになるかもしれないし」
「肝に銘じておきます」
軽く女将さんに一礼をしてから
目の前がぐにゃりとなり、上下左右の間隔がなくなるとともに、ブゥゥゥンという音が鳴って視界が暗転し、再び明るくなるとそこにはダンジョンが広がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます