第37話 夏だ、海だ

 俺たちは今海に来ている。海なし県に住んでいる我々は引き寄せられるようにして海のきれいな場所までやってきた。もう一つの理由は新しいダンジョンが出現したとかなんだとか。ネットの情報だから真偽のほどはわからないけどもとりあえず来てみた。


「ひゃっほーーう。うみだぁぁぁ」


 海パン姿で飛び跳ね、叫ぶ。

 海辺は夏休みに入ったこともあってか、多くの人で賑わっていた。そのおかげで俺がどれだけ叫んでも気にする人はいないから、遠慮なく叫べる。


「はぁ、あんた。今何歳よ? 年を考えて……」


 猪貝は、海パン姿の俺とは異なり、服を着たままで水着に着替えようというそぶりすら見せていなかった。日焼け防止のためなのか麦わら帽を深くかぶり、サンダル、そして白いワンピースが潮風に揺られてひらひらとちょうちょが舞うがごとくなびいていた。


「はぁ~。なんでそんなかっこしてんの? こうやって気を抜いて子供心に戻れるのも今のうちだけかもしんないんだよ? 今楽しまなくてどーすんの?」


 俺の言葉を受けてしばらく黙り込む。


「でも……」


「あっ。もしかして水着が恥ずかしいとか――」

「えっ、何ー? 別に私恥ずかしくないんですけどー。そんなわけないじゃん。うけるぅー」

 

 言葉とは裏腹に目が泳ぎまくって無理やり取り繕うとする。

「図星かよっ。どれだけ言葉を並べても態度で丸わかりなんだよっ」

「だってぇ」

 うったえかけるような視線を送ってくる。


「んなこと、気にしたってしょうがないじゃん。それにほら水着になったら意外といけるかも、なんてこともあるかもしれないしさ」

「意外とって何よ」

 俺の言葉にむすぅっとほっぺを膨らます。

「まぁまぁ。な、猪貝ってさ、かわいいとこもあるから、さ」

 思わず、口から出た言葉。発したあとに恥ずかしさが俺を襲った。

 でも、猪貝のほうも驚きと恥ずかしさで頬を少しだけ赤らめる。


 「わ、わかったわよ。着替えればいいんでしょ、着替えればっ。」


 そういうと猪貝は海の家に併設された更衣室へと駆けて行った。その姿は心なしかはしゃいでいるようにも見えた。


◎◎ ◎ ◎


「おい、これはどーいうこっちゃ」

猪貝はいまだに恥ずかしいのか、体を隠す様に大きめのタオルに身を隠していた。


「この期に及んでまだ恥ずかしがるか。俺を見てみろよ上なんてすっぽんぽんだぞ。」

「あんたと私じゃ違うでしょっ」

「ほかのやつだって同じだよ。さらけ出さないと」


この俺の言葉を聞いて覚悟を決めたのか

「じゃ、じゃぁ、行くわよ」

「おっ、おう」

なんか改まって宣言されるとなんかいけないことをしているかのような感覚に陥る。

猪貝は静かにゆっくりと体に巻いたその水色のタオルをゆっくりと下ろす。

そしてグラマラスなボディー(?)が姿を見せる。


「おぉっ。おぅ。ふぅぅ。 ん?」

「何よその反応? しかも最後の疑問府は何? なんか文句でもあるの?」

「いや、まぁ、なんでも」

「普通さ、女の子が水着になったらほめるもんじゃないの?」

 

 やばい。普段こんな機会がないからほめる言葉が見つからないし、思いつかない。

 でも頑張ってひねり出した言葉が

「う、うーーん……。主張してない感じがいいかな?」

 だった。


「ほんと、デリカシーなさすぎんのよっ。あんたはッ」

 バシーーンと素晴らしいビンタを頬に一発くらった。


 そのあとは猪貝にビンタをされたところがキレイに手の形に赤く腫れ、そこに太陽光が当たっていたいし、海に潜れば塩水でひりひりするから結局日陰に入って海を眺めて半日が過ぎた。


 でも、猪貝のほうは俺をビンタして吹っ切れたのか恥ずかしがるのをやめて楽しそうに遊んでいたからよかったと思うことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る