第33話 再挑戦⑧

「俺さ、めちゃくちゃいいアイデアが浮かんだかもしれない……」

 ただ、丁寧に説明している暇もないから猪貝にやってもらうことだけを簡単に指示を出す。

「【魔空壁ガード】をサラマンダーの口の前に出してみてくれっ」

 

 俺の作戦はこうだ。炎魔法はいくら広範囲とはいえ唱えた瞬間は一点、例えばサラマンダーの場合で言うと口という狭い範囲で炎が生成される。つまりその段階で【魔空壁ガード】を張っておくことにより、小さな守りで防げるんじゃないか? というのが俺の出したアイデアになる。


「わかったわ。やってみる。でも私のMPもあるからあと何回かしか【魔空壁ガード】は打てないことだけは覚えておいてっ」

「【魔空壁ガード】ッ」


 猪貝がこう唱えるとすぐにサラマンダーの口の前に透明な壁が生成される。


「よしっ。あとは思惑通りにサラマンダーが炎魔法を唱えてくれさえすれば――」


 ただ、サラマンダーのほうも野性の勘だろうか、警戒して炎魔法を撃ってこようとはしない。さすがにMPの関係で使える数に制限ある【魔空壁ガード】を無駄にするのは避けたいからなんとしても撃たせなければいけない。


「しょうがない。原始的な方法だけど――、挑発するしかないか」

「【ヌルヌル】ッ」


 今回のヌルヌルは粘度マックスで液体というよりかは固形に近い、まさにスライムの硬さでソフトボールくらいの大きさのヌルヌルを生成する。そして、できたものをピッチングの要領でサラマンダーに向かって投擲する。

 一方でサラマンダーのほうは、先ほどの炎魔法の際にヌルヌルが溶けることを確認しているから俺のヌルヌルボールに対し炎魔法で応戦しようと口を開けて射程圏内に入るのを待っている。

 俺のヌルヌルボールが射程圏内に入ると即炎魔法を唱えた。口の中では炎が生成され始める。そして炎を口から出そうとした瞬間、透明な壁にぶつかり炎が消滅するのを確認できた。


「よっしゃ。一対一なら炎魔法対策ができるってことがわかっただけでも大きい」

「まぁ、私とあんただから一対二なんだけどね」

「そういう冷静なツッコミはやめて……」


 とりあえず、回数に上限はあるものの無効化できるとわかったので攻撃に移ることにした。ただ、スピードはサラマンダーのほうが上なので避けられてしまう。

 俺の持っている魔法だと【跳躍強化】のみでスピードを上げるわけじゃないからどうしようもない。

 猪貝は【脚力強化】を持ってはいるもののもともとのスピードがサラマンダーよりも断然遅いからどうにもならないし、【跳躍強化】や【脚力強化】に関していうと他人には使えないスキルなので猪貝が俺のスピードを上げるとかもできない。


「早くしないとっ。あいつ逃げちゃう」

 猪貝は逃げようとしているサラマンダーを見て叫ぶ。サラマンダーは【脚力強化】と2足歩行という2つのバフにより出せる最高速度に到達している。


「くそっ。あいつら足早い癖に【脚力強化】まで使ってるからな」

 考えても仕方がないので逃げ出そうとするサラマンダーを追いかける。

 ダンジョン内には今俺がふさいでいる道だけでなく、人間が通れないような大きさの道もあるためそういったところから逃げ出し、仲間を呼ばれる可能性もあるから即座に倒さなければいけない。


 サラマンダーとのスピードの差はわずかにサラマンダーのほうが上という状態。

 最初あった微妙な距離感も走るにつれてだんだんと開いていく。

そのため背中に向けて短剣を振り回すもあと少しのところで攻撃を避けられてしまう。


「あと少し。あと少しだけ遠くに攻撃ができれば……。というか、ここで攻撃を決められなかったら――」

 

 くそ、なにか俺にできるほかのことは―――。

 あっ。

 

「あった。俺には一つだけあるんだ。少しだけ、ほんの少しだけ距離を詰める方法がっ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る