第32話 再挑戦⑦

絶命したサラマンダーの体が光始める。

そしていつものようにステボがドロップ――、しなかった。


「はっ? えっ? どゆこと?」


 俺はステボがドロップしないという初めての現象に戸惑う。

今までは100パーセントドロップだったのになんで今回は落ちないんだ?

 俺が倒したサラマンダーが幼体だったからか? もしくは今まで倒したやつらもほんとは確率でドロップするはずだったものが、運よく全部ドロップしただけなのか?


「もぉー。早いんだからー。少しは待ってくれてもいいじゃん」

 俺が考えているうちに猪貝は遅れて俺のもとへとやってきた。頑張って走って追いかけてきたらしく息が弾んでいる。

「えっ? どうしたの? 深刻そうな顔して」

「いや、なんかステボがドロップしなくてさ。原因を考えてるんだけど……」

「だったら何回か倒してみればいいんじゃないの? たった一回落ちなかっただけで決めつけるのは早計ってもんじゃない?」

「確かにそうだな。一回だけで決めつけるのはよくない。よしっ、もう一匹。いや何匹か倒すか」


 もう一度、同じ場所に戻ると、先ほどとは異なる個体のサラマンダーが俺のおいた肉にありつこうとしていた。

 その様子をばれなように静かに物陰から二人で観察する。


「さっきのサラマンダ―よりかは大きいな。でもこの大きさでもまだ中くらいかな?」

「なんか小さい個体から順々に採取しに来るって、会社みたい」

「ん? どゆこと?」

「いや、若手が頑張って取りに行ってるように思えて……」

「サラマンダーの社会も年功序列なのかもしれないな」

「なんか世知辛いわね」


 サラマンダーは何回か肉の周辺を歩いたのち、危険がないと判断したのか肉に嚙みついた。


「よし、今だ。あいつを倒すぞ」

 

 俺は物陰から飛び出し、肉を運ぼうとしているサラマンダーの前に飛び出す。仲間を呼ぶことができないようにおそらく巣がある方の道に立ちふさがる。

 

 そして、さすがに仲間を呼ぶことが難しいと判断したのか、サラマンダーは運搬していた肉を地面におろす。


「キシャァァァ」


 高い声で威嚇をしたかと思うと、そのまま炎魔法を唱え開いた口から炎を吐き出すサラマンダー。

 炎はダンジョンの道全体に広がり、俺の視界を覆う。



「やばい。【ヌルヌル】ッ」


 俺は瞬時にヌルヌルを発動し、ヌルヌルガードを体の周りに形成する。

 ただ、ヌルヌルは耐熱性があるものの、耐火性に乏しいらしく炎に当たった部分がドロリと溶け、地面にぼたぼたと垂れる。そして、溶けてできた穴から炎が顔を出して俺のもとへと到達する。


「やっべぇ。マジかよ」


 さすがに炎魔法をそのまま肌にくらったらひとたまりもないことは容易に想像できる。

 どうにかしないとな。とはいえ俺の持ってるスキルは……。


「【風魔法】ッ」


 唱えた瞬間にビュオオと風が両手から噴き出す。そして風は迫りくる炎を完全に弾き返すとまではいかないものの軽減させることには成功する。

 それでもなお炎は俺のもとへと迫りくる。ただ使えそうなスキルは残っていなかった。


「さすがに、風魔法じゃ炎魔法にはかなわないか――」


 もう術はなしとあきらめダメージを受けることを覚悟した瞬間、後ろの方から大きく高い声が聞こえてきた。


「【魔空壁ガード】ッ」


 その声はダンジョン内に響き渡る。

 すると俺の目の間に透明な板やら壁のようなものが生じる。炎が俺の魔法のおかげで弱まっていたためにシャットアウトする。そしてその壁は役目を終えたのか、次第に消えていく。


「このスキルは……」

「私もいるってこと忘れないでよねっ」


 俺が後ろを振り向いて確認すると短剣を構え戦闘態勢に入る猪貝の姿を確認することができた。


「猪貝、危ないからここに来たらだめって……」

「なぁーに馬鹿なこと言ってんの? 私たちパーティでしょ?」

「でも……、お前のステータスだと」

「私がやられそうになったら多分あんたが助けてくれるでしょ? で、あんたがやられそうだったら私が助ける。それがパーティってもんじゃないの」


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