第31話 再挑戦⑥

「今回はさすがにファイアサラマンダー残ってるよな? 前回のがイレギュラーだったわけだし」

「うーーん」

「どした?」

「ほんとにあいつらが全部のサラマンダーを倒したのかしら?」

 猪貝の言うあいつらというのは黒田たちのことをさしているのだろう。

「それはわかんない。直接倒したところを見たわけでもないし、話をしたわけでもないから本人たちしか知らないと思うよ」

「ふぅん。神のみぞ知るってやつね」

「おいおい、それだとあいつらが神ってことになっちまうぞ」


 なんてやり取りをしてるうちにサラマンダーたちのいる最下層に到達した。

 今回は前回と異なり何匹ものファイアサラマンダーを遠くから目視できた。

 ファイアサラマンダーはしっぽの長さでオスとメスの確認ができるらしく、それに基づいて確認した限りだとオスのほうが多いことがわかる。ただ、確認したところで何かがあるというわけではないのだが。


「と、言うわけでサラマンダー退治と行きましょうか。ただ、気をつけないと囲まれてやられちゃうからね。と、言うことで“これ”を使うとしますか」

 俺はアイテム用の袋からあるものを取り出す。

「それは……」

「はい、先ほど入手したダンガンラビットの肉っ。サラマンダーたちはこの肉が好物らしいからこれを使っていきます」


 俺はサラマンダーに見つからないようにそぉーっと近づいてからダンガンラビットの肉を地面に置く。


「肉を置いたところで集団で取りに来ちゃうんじゃないの? そしたら肉を置く意味なくない?」

 猪貝の疑問は至極もっともだ。集団と戦いたくないって言ってるのに、えさを取りに集団で来られたら無駄なことをしていることになる。

「ご心配なく。群れで暮らしているせいか社会性が群れの中に生じてるんだよ」

「社会性?」

「そう、例えばメスは子孫を残すことに注力しているから狩りには出ない。その代わりにオスがえさの探索に行くんだ」

「なんかミツバチみたい」

「その通りっ。で、えさの探索って言ったって固まって移動するのよりかは、別れて探索して食料を見つけてそのエサが大きければ仲間を呼んで運搬した方が効率的だろ? だからサラマンダーたちはえさの探索の時は個別に動くんだ」

「へぇ。知らなかったわ」


 説明をしているうちに、小さなサラマンダーがえさの匂いを嗅ぎつけたのかダンガンラビットの肉の周りをうろうろしている。ただ、警戒しているのか匂いを嗅いだり周りを確認したりで一向に肉を回収しようとはしない。

「なんかちっちゃいサラマンダーってかわいいわね」

「かわいいもんか。あんなもんでも炎魔法をバンバン吐いてくる。油断してたら一発でやられるぞ」


 ほんとは肉にかみついて油断している間に攻撃を仕掛けたかったのだが、思ったよりも警戒しているようで思った通りにはなってくれない。時間を無駄にするわけにもいかないから、結局サラマンダーが肉にかみつく前に攻撃することにした。


「さすがに俺もスピードは上がったから、追いつけないってことはないだろッ」


 俺が飛び出すとサラマンダーは足音に気付いたのかこちらをにらみつけてくる。ただ、野性の勘なのか一匹で俺と戦うのが分が悪いと判断したらしく、俺に背を向け元来た道を戻ろうとする。


「そうはさせるかよッ」


 さすがにこいつがもし群れに戻って仲間を呼んでしまったらかなりやばい状況になることは明白だから俺は走って追いかける。

 ただ、このサラマンダーはまだ幼いらしくスピードはそんなに速くなく俺でも追いつくことができた。

 

「ちっちゃいけど、ごめんな。これも探索なんだ」


 俺は短剣をサラマンダーの背に突き刺す。サラマンダーの体表はそれなりに硬いウロコで覆われているらしく結構力を込めて攻撃することでやっと貫通した。

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