第24話 因縁
「おっと、すまんな。って、お前か……」
一瞬倒れた俺のほうへと手を差し伸べようとするも、相手が俺だとわかった瞬間にいやそうな顔をして手を戻す。
「ってか、うおぉぉぉ。俺の装備になんか変な液体がついてんだけど。きもっ」
かなり大きな声で叫んだせいでダンジョン内に黒田の声が響く。
ぶつかった際に俺のヌルヌルが黒田の装備についたのだろうか、一部テカテカ光っている。何とかして服についたヌルヌルを落とそうとするも、粘着性が強く簡単には落ちてはくれない。
「これおまえのせいだろ。お前の服で拭き取れや」
そういうと黒田は俺の服を思いっきり引っ張って、ヌルヌルをふき取る。
「お前のせいなんだから、お前のもので責任取る。これが筋ってもんだよな」
そんなことをやっていると、後ろから成上と、磐田が姿をあらわす。
「前から叫び声が聞こえると思ったら、何をしているのかしら?」
「黒田、お前の声は響くんだ。もう少し静かにした方がいい」
興奮している黒田とは違い、落ち着いている二人。
「これが落ち着いてられっかっての。見ろよこいつ。覚えてっか?」
黒田は俺のほうを指さす。
「あぁ、なんでしたっけお名前? 高橋だか、佐藤だかよくある名前のやつじゃなかったかしら。あいにく利用価値のない人の名前を覚えるのは苦手で……」
ニヤニヤしながらこちらを見てくる成上奈苗。この顔は絶対に俺の名前を知っている顔だ。俺を馬鹿にするためだけにすっとぼけていやがる。
「確かにそうだよな。無駄なこと覚えると、脳の容量の無駄遣いだもんな。俺も奈苗のこと見習って忘れっとすっか」
「ずっと黙って聞いてれば何よその言い方っ。あんまりにもひどいんじゃないの?」
俺の後方でずっと静かにしていた猪貝が声を出して黒田たちのほうへと近づく。
「なんだ、この小動物みたいなやつは……? もしかしてこいつの仲間か」
猪貝のほうへと目を移す黒田。猪貝の背が低いことをからかう。
「そうよ。仲間よ。それにあんたも背が低いんだから小動物仲間じゃないっ」
一番気にしていた身長のことを馬鹿にされたのが気に食わなかったのか、黒田の表情が一気に硬くなる。
「きゃんきゃんうるせぇな。お前知ってんのか? こいつが無能だってこと?」
「逆に聞くけどあんたは有能だってこと知ってるのかしら?」
「有能? こいつが有能だって? 冗談もほどほどにしてくれよ。だってこいつ万年レベル1で、スキルもくその無能だぞ?」
「違うわっ。スキルは……ムグゥッ」
俺は途中で猪貝の口をふさいでそれ以上のことを言わせないようにする。言ったところでどうせ信じてもらえやしないし、こんな奴らにわざわざ情報を渡す必要もない。
「田中ぁ、類は友を呼ぶってやつか? 能力はない奴に限ってかみついてくる。第一、雑魚はここにくんじゃねぇよ。雑魚は雑魚らしく、立場をわきまえてスライムだけでも倒しておけよ」
俺のことを馬鹿にするだけでなく、猪貝のことまで馬鹿にしやがったのか?
俺のことを馬鹿にするのはまだ許せる。が、仲間のことを、猪貝のことを馬鹿にされるのは許せない。
さすがにこいつに一発食らわせないと気が済まない。ただ、それにはダンジョン内で攻撃しあってはいけない(しかし軽微な傷は問題ないものとする)という規定に引っかかる。
ただ、そんな俺にはその規定をすり抜けるものが1つだけあるのを思い出す。
「あぁ、今でもスライムを倒してるよ。今では俺の能力の一部だからな」
「能力の一部? 何を言ってるんだ?」
「いや、別に気にしなくていいさ。ところで、さっきぶつかったときに怪我とかしなかったか? いい話をしてもらったしな。特製のポーションをかけてあげようと思うんだけど……」
「いいこころがけじゃねえか。雑魚はそうやって強い奴に貢献してればいいんだよ」
「それは了解ととらえていいんだよな。【ヌルヌル】ッ」
俺は両手を黒田に向けてヌルヌルを最大放出する。
ドバァーっと出たヌルヌルは黒田たちの体を覆う。何回か使っていくうちに量の調整と成分の調整ができるようになっていた。今回出したのは回復成分少な目で粘着性マシマシのヌルヌル。
「何よこの液体? 気持ち悪いんですけど」
「う、動けん」
大量のヌルヌルによって身動きを取れなくなった黒田たち。吠えることしかできない。
「田中ァ、お前なにしてるかわかってんのか? ダンジョン内での争いは厳禁だろうがよぉぉ」
「これは回復成分の入ったやつだから攻撃じゃなくて、治療のための行為だからそれには当たらない。まぁ、少し経ったら消えるからそれまでそうしてろ」
「てんめぇ、覚えてろよ。隣の小動物もおんなじだ」
「お前が先にやってきたんだろ? なんで俺がお前に恨まれなきゃいけないんだ」
「雑魚が俺に逆らったから。それで理由は十分だ」
ヌルヌルに覆われていてもなお、今までの態度を変えない黒田。
「もういい、猪貝、ダンジョンから出よう。こいつらと話していても無駄だ」
「わかったわ」
こうして俺と黒田たちの久しぶりの対面は最悪の状態で終わった。
この時はこの後も黒田との因縁が続くとは思ってもいなかった。
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