第22話 芸術点

「マジかっ。岩魔法が追加されてんじゃねぇか。すっげぇ。なんかかっけぇ」

 語彙力がないせいで出てくる感想が思わず小学生みたいになる

「ほーら、やってみなさいよって言った私のアドバイスは正しかったじゃないの」

 ドヤ顔でこっちを見てくる猪貝。


「で、岩魔法ってどんなのかしら? ちょっと使ってみてよ」

「しょうがないなぁ~、ちょっとだけだよ。ちょっとだけ」


右手を前に向け大きく叫ぶ

「岩魔法ッ」

 しかし何も起こらない。

「嘘だろ? もう一回。岩魔法ッ」

それでも何も起こらない。ただただ俺の声がダンジョン内にむなしく響くだけ。

「なんで何も起こらないんだ? もしかして発動条件とかあるのか?」

「なにかしら? 例えば岩に触れてなくちゃいけないとかかな?」

「それだっ。それしかない」

 指をぱちんと鳴らす。

 そして俺は程よい大きさの岩を見つけ出し、右手で触れながら岩魔法を唱える。

 すると岩はぐにゃりと溶けたチーズのように変形していく。


「うっわなにこれ?」

「もしかして頭の中でイメージしなくちゃいけないんじゃない? どんな形にするのか」

 俺は猪貝のアドバイスをもとに頭の中で形を思い浮かべようとする。でもいきなり何かを考えろって言われると思いつかないものだ。


 結局できたのは雪だるまのような形の岩。

「なにこれ? 雪だるま作ったの?」

「何も思いつかなくてお地蔵さんを作ってみたんだけど……、やっぱだめか」

「見ようによっては見えなくもないけど、うーーん20点」

「めっちゃ辛口採点じゃん」

「私デザインにはうるさいほうなので」

 しょうがないので出来上がったお地蔵さんもとい雪だるまに岩魔法をかけ元に戻してからさらに下の階層へと向かっていくのだった。

 

◎ ◎ ◎ ◎

ダンジョン内は全体的に赤くなっているせいか、妙に興奮して気が休まるタイミングが全くない。

 

「ふんふーーん」

 そんな俺とは対照的に猪貝はのんきにも鼻歌を歌っていながら軽い足取りで俺の前をどんどんと進んでいく。ふつうはダンジョン中では何が起こるかわからないから慎重にゆっくりと進んでいくものなのだが、猪貝の行動からは恐れみたいなものは感じられない。むしろ興味津々で楽しそうな印象を得る。

「猪貝はさ、なんでそんなに楽しそうなんだ? ダンジョンなんて本来は怖くてたまらないものじゃん」

うーーんと腕を組んで少し考えこんでから

「やっと自分らしく生きている。そんな感じがして仕方ないの」

「どゆこと?」

「うちの家はね……、ううん。やっぱ何でもない」

 すると先ほどまでの楽しそうな雰囲気がふっと消え去り、黙ってしまった猪貝。

 一瞬だけ。ほんの一瞬だけ悲しそうな表情を少しだけ見せたのを俺は見逃さなかった。


「それよりもさ、やっぱり私じゃファイアサラマンダーはまだ倒せそうにないの?」

 先ほどの沈黙から瞬時に切り替えて元のテンションを装い話しかけてくる猪貝。


 俺はサラマンダンジョンに入る前に、ほんとはこのダンジョンは猪貝のレベルだとまだまだきついから、俺がダメージを与えた奴のとどめを刺すことに集中するよう伝えたのだった。


「別に倒せないってことはないとは思うよ。ダメージさえくらわなければ。でもスピードは速いし、炎魔法は広範囲の攻撃だから猪貝だと避けられないと思うんだよね」

「だめぇ?」

 おもちゃをおねだりする子供のように上目遣いで訴えかけてくる猪貝。

「ダメなものはダメです」

 俺もそれに対抗するかのように母親みたいな返答をして、腕をクロスさせて胸の前にバツを作り出す。


「ちぇっ。けちぃ。そんなんだから女の子にもてないのよ」

 ベーっと舌を出してからかってくる。

「そ、そんなこと言わなくたっていいじゃん。結構傷ついたぞ」


 こんなあほなやり取りをしながらダンジョン探索は順調に進んでいった。そして奇妙なことに敵と遭遇することなく俺たちはファイアサラマンダーのいる最下層まで到達したのだった。

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