第19話 成長
目標としたレベルまではいかなかったけども、まぁ、Eランクダンジョンに潜っても足手まといということにはならなそうなので。俺の案を猪貝にぶつける。
「あのさ、猪貝。ランクも上がったし、一つ上のランクのダンジョンに行こうと思うんだけど? どう?」
うーーんと唸ってから少し考えこむ猪貝。
「ん? どうした?」
「別に一つ上のダンジョンに行くのは構わないのよ。行くのはね。今回は私のランク上げるためにあんたには結構頑張ってもらったしさ」
「だったら別に行くってことでいいんじゃないの? 賛成多数で俺の案が可決されましたってことでさ。二人しかいないけど」
パチパチと何かの法案が通ったときの議員達のように拍手をしておどけて見せる。
ただ、猪貝は俺の目をじっと真剣な目で見つめながら
「おふざけはいいからさ。ちゃんと話を聞いて」
なんて言われちゃったから、すぐにやめた。
「とりあえず言いたいことは一つ」
と俺の顔の前に人差し指を立てる猪貝。
「あんたのその武器じゃ心もとないんじゃないの? それ安もんでしょ? そろそろ買い替えといた方がいいんじゃない?」
確かに言われてみれば……と、俺の相棒の短剣君を見ると結構ぼろくなっているのがわかる。思い返してみればスライムを攻撃しているときだって切れ味の悪さが気になっていたし、猪貝の言う通りそろそろ替え時なのかもしれない。
「まぁ、俺単体の攻撃力が上がってるし、そんな気にはなんないかも。第一そんなお金ないしね」
今月の家賃だってもちろん滞納して、大家さんに俺の部屋に再び乗り込まれたわけで本当にお金がないのだ。
「それなら、ここにお金があるわよ」
すると、ドヤ顔で封筒に入ったそれなりの額になるであろうお金を見せてくる猪貝。
「すっげ。もしかして盗んじゃった? いけないよそんなこと」
「そんなことしないわよっ。私のことをどんな奴だと思ってるの?」
「自信満々時たまナイーブちゃん」
「そうかもしれないけどもっ」
とツッコミを入れてから、手で箱を横に動かすジェスチャーをしながら
「とりあえず、そんなくだらないことは置いといてっと」
「うん。置いちゃったねぇ。で実際そのお金はどこから?」
「これは……マホガラスとスライムのアイテムの買い取りのお金よっ」
猪貝は封筒からお金を取り出し扇のようにして仰いで見せる。
そうだ。今回は猪貝がとどめを刺して倒したからかなりのアイテムがドロップしたんだった。いつもならステボとかいう使えはするけど生きていくには使えないくそアイテムがドロップするけど、今回は違った。
思い返せば毎回ダンジョン探索終了時にマホガラスのくちばしと羽、そしてスライムの身がドロップしたのを全部猪貝が持って帰っていたのを忘れていた。
「しめて10万円。全部私の……」
猪貝は自分の懐に入れるようなそぶりを見せる。
「おいおいおい。そりゃぁないってぇ……」
「もちろん嘘よ。嘘。いつもからかわれてばっかだからやり返したくなっちゃってさ。でもさっきも言ったけど、感謝はしてるの。だから全部受け取って。そして武器を新調したら上のダンジョンに行きましょ」
いい奴じゃないか。
俺は精神的にも探索者としても成長した猪貝に感動して涙が出てきた。
わが子の成長ってこんなにも嬉しいものなのだとは知らなかった。
ただ残念なことに家に戻ったあと大家さんに滞納してた分を全部支払ったら、ほとんどなくなっちゃった。まぁしょうがない。さすがに金があるのに滞納しっぱなしは気持ちが悪いからな。
後日、猪貝にそのことを話したら、
「あんたあほなの?」
と滅茶苦茶あきれられた。でもそのあとに
「それがあんたっぽい所でもあるのかもしんないけど」
なんて意味深なことを少し笑みをこぼしながら言われたから
「どういうこと? ほめてんのそれ? ねぇ。ねぇってば」
ってしつこく聞いたら
「そんなことはどうでもいいから次はどこへ行くの? 教えてよ」
とはぐらかされて答えを聞くことはかなわなかった。
今度の探索は、猪貝も賛成してくれたからEランクダンジョンに潜ることになった。
ただ、語学の講義の出席日数が危なくなってきたので、今度の週末に行くことになったのだった。
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