第17話 初ハント
「もしかしてレベル1とかじゃないよね……?」
スライムすら倒したことがないという情報から、導き出される考えを思わず口にする。
「その、まさかよ」
なぜか自信ありげに答える猪貝。
「いや、なんで自信満々なんだよ。さっきまでの態度はどこ行ったんだよ? ちょっ、ドヤ顔やめてくれ。ほめてないし」
ツッコミを入れた後、一つの疑問が頭に浮かんだ。なんでスライムすら倒したことない猪貝が五階層まで来て、マホガラスと戦っていたんだ?
「なんで、猪貝は五階層にいたんだ? 普通だったら一階層でまずスライムと戦ってから五階層まで行くはずじゃない? なのになんでいきなりマホガラスのところに行っちゃったの?」
「それは……、スライムがなぜかいなかったからよ」
スライムがいない? そんなことあるのか? スライムを沢山倒すもの好きなんてふつうはいないぞ。だって利用価値が皆無で初心者の練習くらいにしかならないし。
ん? んん?
まてよ。なんか身に覚えがある気がするぞ。確か今朝は俺が……。
額から変な汗が垂れ始める。目が謎に泳ぎ始める。
「どうしたのよ? いきなり?」
俺の様子がおかしいことに気が付いて心配をしてくれている猪貝。
「いや、あの、その、ね」
「なに? 早く言ってよ」
別に俺が直接の原因ではないにせよ、猪貝が傷つく一因になったことは確かだから謝らなきゃいけない。
「それ、俺のせいだわっ。ごめんっ」
頭を下げた後、両手を合わせて謝罪のポージングを決める。
そうだ。朝スライム狩りまくったのは俺だ。調子乗って全部のスライムを倒したんだった。
マホガラスによってダメージを負った猪貝を俺が助けたけど、これってマッチポンプと言っても差し支えないような気がしてきた。
「ん? どゆこと?」
「いや、だからね……」
俺は今朝のことを話した。
「つまり、あんたがスライムを全部倒したってこと?」
「うん。そ、そうなるね」
「だったらさ」
と言ってから猪貝は少し視線を自慢に落とし間があける。
もしかして無理難題吹っ掛けられるんじゃないだろうか? とか心の中でどんなことを言われるのか? とかいろいろと考えを巡らせていた。
それでも発された言葉は俺にとっては意外なものだった。
「教えてよ。スライムの倒し方。私でも倒せる方法があるんでしょ」
「別にいいけど、怒ってないの? 俺のせいで傷ついたことをさ?」
「そんなん別に気にしてないわ。だってあんたが直接やったわけじゃないし、何も考えないで行った私が悪いんだから。それよりもさ。早く教えてよ」
意外と猪貝の心が広いのか、俺が心配しすぎなのかわからないけど、とりあえず問題はなかったようでよかったと胸をなでおろした。
◎ ◎ ◎ ◎
ダンジョン内で臨時の講義が始まった。講師は俺で生徒が猪貝。
「まずスライム退治の基本は一撃で仕留めること。そして無駄に傷つけないこと。傷つけちゃうとさっきみたいにヌルヌルで回復されるか、邪魔されるから」
うんうんと頷く猪貝。俺はその様子を見て臨時講義を続ける。
「目を凝らせば、スライムの核がみえるはず。そこを狙えばたいていのスライムは一撃で倒せる。ただ気を付けないといけないのは個体によって核の位置、大きさが違うから、ちゃんと観察しなくちゃいけない」
俺はスライムを一匹見つけ、前に立つ。基本的にスライムは攻撃さえしなければ攻撃してこない奴なので、観察する余裕はある。
「例えば、こいつだったら、ほら、真ん中から右側に少しそれたところに3㎝くらいの核があるだろ? そこに刺さるようにすれば一撃で行けるからやってみて」
俺は、猪貝に攻撃するよう促す。
猪貝はうん、と言ってからスライムをじっと観察し核の部分を凝視する。そしてスライムの頭頂部に短剣を向けて、すっと落とすようにして核の部分に突き刺す。
核の部分に収束していくように、引き寄せられるように短剣は突き刺さる。スライムは痛みを感じる間もなく、瞬時に絶命した。
「やった。やったわ。初めて倒したわ」
うれしさを全身で表し、飛び跳ねる猪貝。先ほどまでの落ち込みバージョンは完全に解かれていた。
「よかったな」
完全に俺の気持ちは、わが子が自転車に初めて乗ったときの親の気持ちになっていた。
◎ ◎ ◎ ◎
そのあとは猪貝と同時並行で、何匹かスライムを狩った後、マホガラスにも挑戦した。ただ、二度目とあって動きは完全に把握していたし、新たに習得した風魔法をマホガラスの風魔法にぶつけて相殺することで無効化できたおかげで苦労せず倒すことができた。
今回の探索で手に入れたものは、マホガラスのステボ×1とスライムのステボ×10だ。
ただ、インターバルのことを考えると幾分かコスパが悪いので、次回からはよりコスパがいいダンジョンに潜ることにしようと決めたのだった。
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