第15話 インターバルとハンバーガー

とりあえずダンジョンにはインターバルがあるので、俺たちは一旦ダンジョンから退出することにした。

「次にモンスターが湧くまでには結構時間があるわね」

猪貝はスマホで時間を確認している。俺も腕時計で時間を確認すると、針は朝の7時を指していた。

「さっきマホガラスを倒したのが……、6時くらいか? だったら次に湧くまで3時間ぐらい時間が空くなぁ。うーーん。猪貝だって俺と一緒にいるのいやだろ? そしたらいったん解散してからもう一回ここに集まってから潜るのでいいんじゃない?」

「別にいいわよ。そんなことなら気にしてないわ」


 猪貝がいいとは言ってくれたものの、俺自身は女性と二人きりというシチュエーションは中学生以来で、はっきり言ってどこに行けばいいのかわからない。何も案のない俺がひねり出した答えはハンバーガーショップだった。


 俺がよく行くハンバーガーショップは24時間営業で朝からでもやっている。ハンバーガーを昼飯にテイクアウトしたり、朝だったらコーヒーだけを頼むことがあったりとたびたび利用している俺のお気に入りの店だ。ホントならもっとおしゃれなところに行ければいいのだけれど、俺の知識を総動員しても尚、ここが最適解ということになってしまった(というかそれ以外の店をほとんど知らないし、他に知っている店は時間的に開いてなかった)。


「猪貝は……、どれ食べる? どうせだから奢るよ?」


 奢るといったものの値段なんてたかが知れている。なのになぜかカッコつけて奢るよなんて言ってしまう何とも言えない無様さ。


 俺がこんな情けない提案をしたら後ろについてきた猪貝がめちゃくちゃ静かになってしまった。

 もしかして呆れられられたのかな? なんて思いながら後ろにいる猪貝の様子を伺う。


「さすがにこんなところに連れてきて……怒った?」


 すると、後ろには俺の意に反して目をキラキラと輝かせている猪貝。天井からつるされているメニュー表を隅から隅まで確認している。


 ええぇぇぇぇぇえ? もしかして金持ちすぎてハンバーガー食べたことないとかいうやつなのか? そーなのか?


「もしかしてハンバーガーを食ったことがない? とか? んなわけないよね。さすがに。ははっ」

「べ、別に。私だってハンバーガーくらい知ってるわよ。馬鹿にしないでよねっ。株価が十倍になるとか……」

「いや、それはテンバガー。しかも食べ物じゃないし」

「フードのついてる……」

「いや、それはパーカー。フードだからって食事とは違うぞ」

「じゃ、じゃぁ……」

「いや、もういいよ。知らないことはわかったから」

「むぅぅぅん」

 猪貝が続けて言おうとするのを俺が制止すると、猪貝はわかってるもん。みたいな感じにほっぺを膨らませて、拗ねているのが伝わってくる。


「じゃぁ、先に席にでも座って待っててよ。それとも外で食いたい? 俺はどっちでもいいんだけど……。って、座るのはやっ」

 猪貝は俺が聞き終える前に席に座っていた。なぜか背筋をぴーーんときれいにしており手を両ひざに置き行儀よく座っている。。


 猪貝は言葉遣いとかひどいけど、ああいう姿を見るといい育ちだったのがわかる気がする。本人はまったく言う気がないのだから聞く気はないけど、おそらくそうなのだろう。


 俺はハンバーガーと飲み物をいくつか購入し、猪貝のもとへと持っていく。

「ほれっ」

 俺が手渡すと、猪貝は包装紙に包まれたハンバーガーを眺めているだけで一向に食べようとしない

「ん? 食わないのか?」

「べ、別に。ちょっと眺めてるだけよ」


 ははーーん。さては食べ方を知らないんだな。しょうがない。一肌脱いでやるか。

俺はいつも食べるようにハンバーガーを食べた。猪貝に見えるように。

 

 その様子を見ていた猪貝も、俺に従うようにしてパクっと一口頬張る。

「んん。んんっ」


 多分、おいしいのを表現して変な声が出たんだと思う。ただ、結構な人がその声を聞いてやばいことが起きたのかと勘違いして俺たちのほうを見てきたので、変な声を出さないように猪貝に伝えた。


「で、おいしかったか? おそらく猪貝にとっての初ハンバーガーってやつは?」

「別に初じゃないけど、美味しかったわ。ありがと」

 猪貝はいまだに初めてじゃない風を装っているけどツッコむのもめんどくさいのでスルーした。

「そうか、それならよかった。お金持ちの舌には合わないかと思って、さ」

「だから私は金持ちじゃないって」

「はいはい。わかったわかった」

 あしらうような態度を採ったら、めちゃくちゃ怒った猪貝。


 こうして腹ごしらえとインターバルを乗り越え、再び俺たちはダンジョンへと向かったのだった。

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