第14話 結成
「っていうか、逆に猪貝が俺と組むメリットって何? 別に俺じゃなくたってほかの人でもいいわけじゃん? わざわざ俺に頼む意味って?」
純粋に気になった質問をぶつけてみる。
「私にはお金が必要なのよ。それもたくさーーんのね。。そうすると強い敵を倒さなきゃいけないでしょ? そうするとあなたの力、いやスキルがかなり魅力に思えるの」
「でも、持ってるものとか見るとお金とかには特に苦労はしてなさそうだけど……」
猪貝の装備に目を移せば、防具から武器まで有名なロゴが入っているのがわかる。特に腰に携えている短剣なんてどれだけ使っても研ぐ必要がないと言われてるめちゃくちゃいいやつのはずだ。もちろんそんなに品質がいいのだから、かなりいい値段がするはずだ。だから、そこまで金に苦労はしていないような印象を受ける。
猪貝は自分の装備を確認しながら
「そうだけど……。これは今までの癖で思わず買っちゃったってだけでお金なんて今はほとんど持ってないわ」
癖? 癖ってことは今までそんな高い物ばっか買ってたってことか? すると猪貝はかなり金持ちの家の出身ってことになるのか? だとしたらなぜ今お金に困っているんだ?
「もしかして家出したとか? それとかだったらまだわかるんだけど」
「そこは黙秘。断然黙秘よ」
黙秘って……、半分くらいそうですって言ってるようなものじゃん。
「とっ、とりあえず。私はお金が必要なの、私が私のために生きるには。だからお願いっ」
両手をパチッと合わせ、目で何かを訴えてくる。
猪貝は先ほどまでの横柄な態度は残しつつも、その言葉の裏にはわずかながら懇願の雰囲気が生じ始めている。
「ふぅぅぅん。そしたら俺が頼まれる側かぁ~」
俺は少しニヤニヤしながら返事をする。
俺はこの提案が自分に有利だと気付き始めて、さっきまでいろいろとあったから猪貝を少し困らせてやろうとしていた。
「な、なによ。いきなり」
「この状態だと、そっちが頼んでる側じゃない? そしたら頼み方のマナーってものがあるんじゃないの? 俺がさっきした土下座みたいなの、とかさ」
「はぁぁぁああ? か弱い女子にそんなことさせるの? ホントに? 信じられないんだけど」
「別に俺は強制的にやれって言ってるわけじゃないんだ。別に。ただ誠意っていうものがあるんじゃないってこと」
俺からの急な指示に困惑している猪貝。
やろうかやらないかの狭間で悩んでいるのが表情からひしひしと伝わってくる。
少し時間が空いてから、猪貝の表情が覚悟を決めた表情になる。吐き捨てるように
「じゃぁ、やってやるわよ。やればいいんでしょ。やれば」
猪貝は姿勢を低くして本当にやろうとし始める。
「ストップ。ストォォップ。覚悟は伝わったから。やらなくていいよ。すこしからかいたかっただけだし」
本当に土下座をやってもらおうとしてたわけじゃないし、少しからかいたかっただけだしこの辺でやめさせる。どれくらい真剣な話だったのかも確認できたし、ここで止めておく。
「ってことは私とパーティーを組んでくれるってこと?」
「まぁ、そういうことになるのかな」
「ほんとに? うれしいっ」
険しい顔からパァーッと表情が明るくなっていく。俺にからかわれていたということに怒りのひとかけらすら見せることなく純粋に喜びを表現する猪貝。
最初からこんな感じにしていれば可愛らしいのにな、なんて心の中で静かに思ったりするけど、言うのが恥ずかしいから言わないでおく。
「せっかくだし、仲間になった握手をする?」
猪貝から予想していなかった提案。
「えっ? また握手すんの? さっきもしたのに? 握手になんか意味ある?」
「でも今度は同じパーティになったからよろしくって意味での握手っ」
猪貝が純粋な目で俺のほうを見つめてくるせいで断りづらい。
しょうがないので言われたとおりにもう一度握手をした。
「じゃぁっ。よろしくねっ」
明るい声がダンジョン内に響く。
こうして俺は猪貝菜々実とパーティを結成したのだった。
「そういえば名前の呼び方とかって……?」
「もちろん下の名前呼びはなしっ。猪貝で。まだそんな仲じゃないからね」
「で、ですよねー」
まぁ、俺も下の名前で呼ぶのは、まだ恥ずかしいしこれで良かったのかもしれない。
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