第5話 黒い球
「チクショウッ。あいつらから誘ってきたくせに俺のこと追い出しやがって」
「しかもなんだあいつら。付き合ってんだったら最初から言えよ。無駄な期待させやがって」
俺は、ボロアパートの中で叫んだ。
そして、無残に積まれた黒い球を床に投げつける。
壁が薄いアパートなので隣人からの手厚い壁ドンを食らう。
「ごらぁ、うるせぇんじゃい。クソガキが。夜中に叫んでんじゃねぇよ」
「すいません。すいません……」
隣の人は、ほんとにガタイがいい人で、なんというかめちゃくちゃ怖い。
なんか頬に良くわかんない傷跡がついてるし、背中には凄そうな絵が描いてある。無用な争いを避けるために即謝罪は基本だ。
ピンポーン。ピンポーン。
やばい。大家だっ。
大家はちょうど俺の部屋の下に住んでいる。今月分の家賃を滞納してるから、いるのばれないようにしていたのにこんなところで……。
「おいっ。たなかぁ、いるんだろ。早く出てきなっ」
「いっ、いませんよぉ(裏声)」
「な~にをふざけてんだか。あたしだってこの部屋の鍵持ってるんだから、入るわよっ」
えぇぇぇ。強行突破かよ。
「ちょっ。ちょっと待ってくださいよ」
「なに、これは?この黒い球は?こんなに置いといたら床が抜けちゃうじゃない。明日はちょうど燃えるごみの日だから捨てておくのよ」
「すんません」
「あと、滞納してる分払ってもらうわよ」
「ほんと、そっちは勘弁してもらっても…」
「その提案を受けるのは無理ね。今週末までに払ってもらうわ。要件はそれだけ。あとは、夜は静かにすること。わかった?」
「ハイ…」
滅茶苦茶縮こまって返事とも取れない返事を返す。
大家が俺の部屋から出ていったことを確認する。
「うっせーー。くそやろぉぉ。こっちゃぁ、パーティ追い出されて稼ぐ方法なくなっとんじゃあ」
再び壁ドン。
「だ・か・ら、静かにしろっつってんだろーが。〇すぞ、ガキが」
「ごめんなさい。ごめんなさい」
「ったく。次はねーからなぁ」
「くそがっ」
俺は隣人に聞こえないように小さくつぶやく。
ダンジョンで稼いで、こんなくそみたいなところ出て行ってやる。俺はこう静かに決意を決めたのだった。
◎ ◎ ◎ ◎
「かといっても案がねぇんだよな。これが。八方ふさがりってか。ははは」
ごろりと部屋に寝転び、天井のシミを数える。
寝転ぶといっても、俺の住んでいる部屋は狭く、足を延ばすと壁に当たる。そして、畳は湿気で気持ち悪い感触になっている。
俺は、黒い球を手に持ち、天井に向かって投げる。天井にあてるとまた怒られちゃうから、あてないように投げる。
やってるうちに面白くなってきてどれくらいぎりぎりまで投げられるかチャレンジする。これが意外と面白い。
「おっとっと。やべっ。ミスった」
「落としたらまた大家に文句言われるぞっ」
落とさないように回収しようとしたら、焦りすぎて手で取ることに失敗して俺の胸に落ちる。
「グフゥッ?」
とりあえず痛そうな声を出したものの痛みはなかったので、変な声が出てしまった。
「んん?ありゃ?全然いたくないぞ?」
確かに黒い球は俺の胸に落ちた。でも、痛みは全くない。確認のため黒い球が落ちたであろう胸に目を移す。
「なっ、なんじゃこりゃぁ」
黒い球が半分ほど俺の胸にめり込んでいる。
「はぁぁぁ?きもっ。いやキモイんだけど」
頑張って取り出そうとして黒い球を手で何度も触っているうちに間違って押してしまう。
「あっ」
スゥ―っと胸に吸い込まれて消えた。
「うぁぁぁ。こんな時どうすりゃいいんだぁぁ」
《ステータスボールの消費を確認。ステータスが追加されます。ご確認ください》
はいっ?今なんて言った?ステータス?
ステータスがどうしたって?
「よーーくわからんが、ステータスオープン」
――――――――――――――――――――――
ステータス
田中秀明
レベル : 1
HP : 11/11
MP : 10/10
SP : 0
スピード : 11
攻撃力 : 11
防御力 : 11
ラック : 10
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――――――――――――
固有スキル
【ドロップ】
所有スキル
【分裂】Lv.1
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