【2分で怪談】 よくないモノを・・・・・・
松本タケル
第1話
「今朝もまたやっているわ」
和美は子供と旦那を送り出した後、2階のベランダで洗濯物を干しながら道路沿いに目をやった。斜め前のお宅の老婆が自分の家の前を掃き掃除している。
そのお宅には老夫婦が住んでいることを知っていたが、近所付き合いはほとんどなかった。おそらく90歳は超えていると思われた。
落ち葉の季節ならまだしも、1年中掃除をしている。同じ日に数回見かけることもあった。
「掃くものがそんなにあるのか?」
その老婆のことは和美の家族で話題になることがあった。今は5月。それほど掃くものがあるようには思えなかった。
和美は昼前に徒歩で買い物に出た。5分ほど歩いたところにスーパーがあるのだ。玄関を出ると、また老婆が掃除をしているのが見えた。背が小さく腰が少し曲がっていた。遠目でも老人だと分かった。
和美は掃除をしている横をできるだけ離れて通過しようとした。
しかし、ちょうど目が合ってしまった。
「こ、こんにちは」
和美は反射的に会釈をした。
「ああ・・・・・・山下さん。こんにちは」
老婆が掃除の手を休めて和美に小さく頭を下げた。
「よくお掃除されていておられますね。何かゴミでも貯まってらっしゃるんですか?」
めったに話す機会が無かったので和美は思い切ってきいてみた。
老婆は少しだけ目を見開き一瞬固まった。そして、
「よくないモノを集めて捨てとるんです」
「よ、よくないモノ?」
「私、長男を事故で亡くしとるんです。それ以降、こうやってよくないモノをちゃんと掃いて捨てるようにしとるんです」
「は、はあ」
和美は薄気味悪さを感じたので早めに立ち去ろうと思った。しかし、老婆は会話をやめようとしなかった。
「山下さん、お宅の前にもよくないモノが貯まっておられるようです。いつも気になっとったんです。でも人様のお宅の前まで掃くのは差し控えとったんです」
「もしよろしければ、私が掃除するときに一緒に掃いて捨てておきましょうか」
老婆は口角をニッと上げて言った。
【2分で怪談】 よくないモノを・・・・・・ 松本タケル @matu3980454
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