カーチェイス

 もうもうと立ち上がる煙幕。一寸先すらも見えない。

「社長。十数えたら右に曲がってください」

「解った」

 隣からの声。

 アクセルを踏み抜きながら答える。そして十唱えた所でハンドルを右に切る。体が傾くような急激な右折。

 堪え前を見据え進む中で視界が晴れ、そして一台の車が見えてくる。


 福沢と太宰の二人は今その車を追いかけている。



 遡ること数十分前

 依頼人への報告を終え、社に戻るところだった二人はその途中で悲鳴を耳にした。駆けつければ銀行強盗犯が逃げ去ろうとしているところ。

 福沢が追いかけようとしたもののその姿は車に乗り影も見えなくなっていた。そこに太宰が福沢を呼ぶ。

 彼は近くの駐車場の中、一台の車のところにいた。そして福沢を急かす

「この車の主は」

「話はつけってあります。今頃、探偵社に連絡して替えの車を手配してもらっ

ているでしょう」

 太宰が投げた鍵を福沢が受け取る。二人共車に乗り込んでいた。


 そして今に至る。

 逃走車はかなりの腕前の者が運転しているらしく見つけたものの捕まえられず追いかけ続けていた。

「久々にとちりましたね。説得を急ぎたかったので、素直に聞いてくれる相手を選びましたけど、スペックを加味すべきでした。

 ふむ。ここは一つ回り込みましょう。次の道は左折で頼みます」




「今日、車ないの?僕歩くの嫌何だけど」

近所の駄菓子屋から帰ってきて早々乱歩は不服気な声を上げて国木田を睨んだ。

「すみません。銀行強盗犯を追いかけるため太宰が一般の方に車を借りたようで、その方に今は代わりとしてお貸ししているのです」

「ふ~ん。銀行強盗ね。もしかしてお前のディスクに写っている映像がそう?」

「はい。先程軍警から協力を頼むと送られてきまして。

 こちらは車の行き先をカメラで追いかけているところになります」

 ぶうたれていた乱歩の目とは画面に釘付けとなっていた。

「太宰からは何を言われてないでしょう」

「え。はい。太宰とは連絡が取れない状況です。

 追いかけているのは確かですが」

「チ。あいつめ」

 乱歩の手が乱暴に髪を掻きむしる。口元がへの字に尖がりながらそれでも乱歩の目は画面を見て、眼鏡をかけている。

乱歩さんと呼ばれてもすぐには答えない。

「銀行強盗は太宰と社長に任かせて僕らはテロを止めるよ」

「はぁ? テロって」

「その銀行強盗は陽動。警察の目をそっちに向けてテロをおこすつもり何だよ。わかったらすぐに軍警に連絡を取って」



 曲がり角を曲がった所で二人の目は追いかけてた車を見つける。距離は近くなったがまだ離れている。

「ちっ。無理だったか。また先回りするか」

「いえ、このまま」

 太宰の口元に笑みが浮かぶ。その目は前を向いていて、福沢の目も前を見る。そうして見開いていく。

 前では軍響が規制をとって待ち受けていた。

「国木田か」

「ふふ。もう乱歩さんが帰ってくるころでしょうけど、これだけやってくれたらって、あ……」

 楽しげだった太宰は彼にしては珍しく口を開けて、

一瞬固まった。

 逃走車が規制帯を無理矢理突破して前に進んでいる。咄嗟に隠れ見送ってしまった何人かが身を乗り出すのにクラクションが鳴る。

 逃走車によりあいた穴を通りすぎていく。

「めちゃくちゃしますね、もう乗りかえないことには人の目をあざむけなくなりましたよ。

 さて、三つ目の角右折でお願いします。しばらく離れます♪」



 ふわぁ~と太宰があくびをしていた時だった。

 突然、福沢がアクセルを踏み込んで車が進みだす。目の前には曲がり角を曲がってやってきた逃走者の姿

「いきなり走りださないでくださいよ」

「来ること分かっていただろう」

 前の車を追いかけて二人の車が走る。太宰はその口元に笑みを浮かべて今にも笑いだしそうでもあった。

 逃走車がわき道に入る。

「このまま真っ直ぐ走ってください」

 わき道を通りすぎていく。

 数度同じことを繰り返した。

 一度離れてはある時点で合流し、また離れる。

 太宰の指示の元横濱の道を走る。

 

 そうして何回目かの時、左折した車を見て太宰の口元が三日月の形につりあがった。

 福沢がハンドルを切る。

「左折してください」

 左に折れ前の車を追う。車は左折していく。福沢もまた左にハンドルを切り、そして…ろ

「渋滞か」

 目の前に流れるのはゆるやかに動く車の流れ。

 逃走車はだいぶ前にいるが、動きはにぶい。

「太宰」

「安心くてください。奴らはここでは騒ぎはおこしたくない。だから大人しく進むはずですよ。ただこの先、右折できるわき道があります」

 話しの途中、二人ともシートベルトを外していた。

「分かった」

 福沢の手がハンドルを離れる。太宰の手がすかさず掴み、運転席のドアが開く。

ためらいなく飛びだしていく。

「後は任せろ!!」

 


 渋滞からそれた脇道を五分程、運転した所で太宰は拍手をする。地面にころがる男達。横転する車のタイヤはパンクしている。

「さすが社長。乱歩さんの所ももうおわっているでしょうから、軍警呼んだら文房具屋行きましょうか」

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