先生と答え合わせ

その青年と目が合ってから数十秒。

呆然と第二理科準備室の前に立ち尽くす春乃に近づく足音が。

「ああ、これプリントどうしたんだよ。みんなのプリント散り散りになってんじゃん。」

そうやって声をかけたのは、春乃にプリントを集めて提出するよう頼んだ張本人。

二年二組 化学担当教師 深海 渚 

いつも白衣を着ており、いかにも化学の先生というイメージが強い。

背丈は高く

髪はかなり長めで、いつも後ろに回して縛る髪型をしている。

性格は何というか…真面目と不真面目の使い分けが上手い。

「…。」

渚に話しかけられた春乃は、依然としてぼーっと前を向いたまま。

「?…。おーい!水無瀬~?みーなーせー。」

「あ、はい」

「いや、「あ、はい」じゃなくて。プリント、拾うぞって。」

「あ、ほんとだいつの間に」

「いつの間にってお前…。大体そんなに突っ立って何見てたんだよって。」

そう言って渚はプリントを拾うのをやめ、扉の向こうに目を向けた。

「あー、あいつにびっくりでもしたのか。」

そうつぶやく渚の目線の先には、謎の青年。

春乃は、少し食い気味で渚に問いかけた。

「え、知ってるんすか?」

「知ってるも何も、弟だし。」

「え?いまなんて?」

「いやだから、弟なんだよあいつ。」

「まじ?」

二回目の衝撃が春乃に走る。

先ほどの扉を開けた時といい、今日は力が抜けそうになることが多すぎると思う反面、知りたかったことが知れて運がいいのかもとも感じていた。

しかし、わからないことはまだある。

「あの、私あの子にあったことないんですけど。」

「そりゃそうだろ。あいつ入学してまだ一か月たったぐらいだぞ?」

「え!ってことは…」

「えっと、さっきから扉の前でなにしてるの?」

そう言って近づいてきたのは、ついさっきまで窓の近くにいた謎の青年だった。

「お前が勝手にこの部屋に入ってるから、びっくりされたんだと。」

「えぇ…そんなにおどろくこと?」

確かに、兄弟らしい距離感の会話がプリントを拾い終わってまだしゃがんだままの春乃の頭上から聞こえてきている。

だがそれよりも、春乃には気になることがいくつもある。

このチャンスを逃してはまた一年間何もなし、なんてこともあり得てしまう。せっかく一年間探し回っていた謎の青年に会えたのだ、ここで一歩踏み出さなければ。

春乃は一機に立ち上がると、謎の青年に話しかけた。

「あ、あの!二年二組の、水無瀬春乃!…です。(やべ。名前聞きたかっただけなのに間違って自己紹介しちまった。)」


『・・・』


数秒の沈黙の後、なんとなく察した謎の青年が先ほどの自己紹介に答えた

「ああ…一年六組、深海凪です。」

「凪…。」

「名前、兄と似すぎってかほぼ同じなんで紛らわしいっすよね。」

「へぇ?あ、あぁ確かに。」

「じゃあ俺、そろそろ教室もどんないと二時間連続サボることになるから。」

渚に一言いって、凪は足早に去っていった。

「水無瀬も、早く戻んないと授業遅刻するぞー。」

「あ、確かにまずいかも。先生、最後に一つだけ!」

「んぁ?なんだ?」

「私、一年の時に深海君のこと見かけたことある気がするんですけどなんか知りません?」

そう。 

最後にこれを聞かなければ教室には戻れない。

渚の弟で一年生でなことがわかって、一年間探しても見つからなかったのは当然だったことは理解できたが。

あの写真を撮った日は確かに凪はここにいた、それがなぜなのかが知りたかったのだ。

「そういえば、一度あいつをここに連れてきた日があったな。多分その時じゃないか?」

「ほぇーそうだったんすね。ありがとうございます。じゃあ、私も教室戻ります。」

「おう、プリントありがとな。」

すべてわかってみれば単純なことだった。

だが、まさか謎だったことが今日のあの一瞬ですべてわかってしまうとは。

なんだかあっけなかった、そうおもうばかりである。

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