第6話

「...彼の様子は?」


「...ダメです。最近は私の存在も認識できていたようなのに、どうしてこんな事に...」


「...そうか。君でもダメだったか」


「...私は大学時代、彼の言葉に救われました。...何とか力になってあげたかったんですが...」


「これは非常にデリケートな問題だからね...。君、昨日から寝てないだろう?私が交代で見ておくから、今日は帰りなさい」


「...はい」


彼女が404号室から退室したのを確認してから、私は深いため息をついた。

現実世界で関わりがあった彼女ならもしかしたら...と思っていたが、それでもダメだったようだ。


「結局、自分を救えるのは自分だけなのかね~...」


私はそんな事を呟きながら、再び患者のカルテに目を落とした。



氏名 夢見太郎

性別 男

年齢 24

住所 ××県××市××町××-×


病名や主な症状

重度の鬱。統合失調症。


治療方法

投薬治療

認知行動療法


メモ

現実と妄想の認識に重度の問題あり。

10日周期で症状が悪化。その間自傷行為を繰り返す。

現在は精神病棟にて隔離入院中。



「それでも、私は諦めない...」


何度同じ事を繰り返す事になっても、私は彼の担当から外れる気はなかった。

きっと彼も必死に戦っているのだ、...自分自身と。

ならば、それを手助けする事こそが、私達医師の使命なのだ。


私はイスから立ち上がり、彼の顔が見える場所まで移動した。

彼の目が開いた。そして、その口から10日前と同じ言葉を繰り返す。


「...これからどうするかな」

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孤独の幸福論 ~10日後に滅ぶ世界~ 骨肉パワー @torikawa999

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