第5話

20××/01/09 ??


「...いつからだっけな?」


2年ほど前から、俺は黒い化け物が見えるようになった。

普通の人には見えてないらしい。...当たり前だが。


最初の頃はいつもの幻覚だと思った。

元々、俺は軽度の幻聴や幻覚に悩まされていたいたからだ。


その黒い化け物は、何かを喋っていた。

ほとんどのやつはノイズ混じりのよくわからない音だ。

だけど、稀に数字を喋っている個体がいた。


1ヶ月ほどそいつらを観察して、俺は確信した。あの数字は「寿命」だ。

最大が10で、最小が0。

近所の人の葬儀などで確認したが、間違いではなかった。


「それからだな。俺の病状が急激に悪化したのは」


その日から、俺の精神状態は日に日に悪化していった。

幻覚、幻聴、化け物のトリプルパンチだ。

普通の日常生活を送れるわけがない。

薬の量も、日に日に増えていった。



俺は車を運転している。助手席には化け物が座っていた。


「あと1日」


「...分かってるよ」


それにしても、周りの景色は本当に悲惨だ。

人が人を襲っている。

謎の肉塊が人間を捕食している。

大きな木が、人間を殴り潰している。

巨大な魚が、人間を踊り食いしている。

...あらゆる場所から泣き叫ぶ声が聞こえる。


「...これが夢なのか現実なのか、俺にはもう分からない」


ブレーキを踏み。車を減速させた。


「なあ? ...俺はどこに行けばいいんだ?」


隣の化け物に聞いてみた。最早猫にも縋りたいという心境でな。


「病院」


化け物の口からそう聞こえた。

病院。その単語を聞くと、何故か心がソワソワとする。

俺は何かを忘れているような気がする。だけど、それが何なのか分からない。


「病院か。...行ってみるか」


...どうせこれで最後だ。

世界は、もう確実に終わり始めている。

俺はアクセルを全力で踏み込み、車を加速させた。



20××/01/10 ??


病院についた。10階立ての大型病院だ。

車から、金属バットを取り出す。

護身用に自宅から持ってきたものだ。


「どうせ最後だ。盛大に暴れてやる」


正面玄関のドアを開けた。白い服を着た化け物が1体。

思いっきりバットを叩きつける。

頭部を完全に破壊してやった。


「ああ。良い気分だ」


奥に進む。

2体発見。同じように潰してやった。

気分爽快だ。


非常階段を発見。

扉を壊し、上を目指す。


「何階に行けばいいんだ?」


黒い化け物が囁いている。


「9階」


9階か。案内板には、病室と書かれていたが。

何があるのだろうか。

俺は9階を目指した。


9階についた。

何だろう。この階に来てから無性にイライラする。


「...ムカつくな」


何かを叩き壊したい。そんな気分だ。

9階西病棟に向かう。多くの個室がある。

一番奥の個室だ。...そんな気がする。

着いた。

部屋に入る。


ベッドの中央に、醜い肉の頭部をした醜悪な化け物が寝ている。

そいつは、俺と同じ服装をしていた。


「・・・死ねよ」


...殺したい。こいつだけは殺さないとダメだ。

俺は怒りにまかせ全力でバットを振りかぶる。

何度も何度も頭部に叩きつけた。


「死ね!死ね!!死ね!!!死ね!!!!死ね!!!!!死ね!!!!!!

死ね!!!!!!!死ね!!!!!!!!死ね!!!!!!!!!

死ね!!!!!!!!!!」


10回ほど叩きつけ頭部を完全に破壊した。


俺は屋上を目指している。


「頭が痛えな」


気分は、最悪だ。

階段を上りきる。


「ああ、楽になりたい」


屋上のドアを開け、フェンスを目指す。

あとは飛ぶだけだ。


「これで、良いんだよな?」


フェンスを手で掴む。

足をかける。

重心を前に向かせる。

体が宙に浮く。

地面が近づいてきて.......................。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る