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 足は床に触れているのに、体は宙に浮かんでいる感覚。飛空船は、僕たちの恐怖をよそに、本当に離陸してしまった。

「……」

 一つ奥の部屋は、狭苦しい食堂になっていて、そこで食事を取るように命令された。白いパンに、野菜のスープ。メインデッシュにはステーキもあって、いつもの食事よりはるかに豪華だったけど、正直食べる気にならなかった。

「人間は、こういう食事が好きなんでしょ? 毒とか入ってないから、安心して食べてね」

 目の前で薄ら笑いを浮かべるハイマの隣には、さっきからウズウズしているサンの姿が。僕たちの方をしきりに見つめて、物ほしそうな顔をしている。

「なあ、ハイマ。俺、そろそろ腹が減ってきた。連れてきた人間どもはついに死んじまったし、こいつらと一緒に食事にしようぜ」

「そうだね。計算よりも早く死なれちゃったけど、タイミング良く人間を捕まえられたし、運が良かったね」

 そう言いながら、席を立って近づいてくる二人。ライラは必死の表情で、僕の腕を掴んできた。

「どっちにする?」

「血のにおい的に、俺は左だな」


 ――その直後、サンはライラのことを押し倒した。ガタンッと椅子が倒れる音とともに、ライラの上に馬乗りになる。

「サンったら、そんなにお腹が空いてたの?」

「ああ。もう我慢の限界だ」

 彼はライラの頭を押さえ、左の首筋に狙いを定めた。「ひっ……!」と怯える彼の声を受け流し、繊細な皮膚に鋭い犬歯を立てる。

「……っ!!」

 ……ライラは一瞬目を見開いて、すぐに力の抜けたような表情になった。僕は彼の首筋から流れる鮮血を、ただただ凝視することしかできなかった。

「どう? 美味しい?」

「……やっぱり、人間の子どもの血はうまいな」

「それは良かった」

 嬉々とした顔で、血を舐め回すサン。その様子を見て、僕はようやくこいつらの正体が分かった。

「吸血鬼……?」

 僕の肩に手を乗せたハイマが、僕の言葉を聞いて怪しい笑みを見せた。

「びっくりしたでしょ? 『まさか吸血鬼が、この世にいるなんて!』って思ったでしょ?」

 ハイマはやけに耳元に顔を近づけて、柔らかい声で囁いてくる。

「僕たちね、普段は人間の目につかないような地下に住んでるんだ。だけどずっと地下にいたら、良い食料が手に入らないだろ? だから時々、こうやって世界中を飛び回って、食料を手に入れることにしてるんだ」

 僕の髪をサラサラと流しながら、彼は恐ろしいことを平然と言ってのけた。

「飛空船って、素晴らしい乗り物だよね。君たちみたいな元気な子どもを、簡単に捕まえられる」

 ……ライラは全身の気力を失ってしまったかのように、ぐったりとしている。僕も

ああなってしまうのだろうか?

「リヴァ君もライラ君も、これからずっと、僕たちと一緒に生きようね。君たちが死ぬまでずっと、傍にいてあげるからさ」

 ハイマの優しい吐息が、僕の首筋に掛かる。ああ、もう駄目だ。僕たちは死ぬまで、この吸血鬼たちに血を吸われ続けるんだ。

 そう思った瞬間、僕はゆっくりと目を閉じた。

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飛空船アンダーグラウンド 中田もな @Nakata-Mona

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