獣化なんですけれどぅ③ラスト「霧は、あたしが守る」

 月夜の森で、犬の散歩をしていた霧に、完全体獣化をした姿を見られてしまった調は次の日から学校で。

 霧とは、なんとなく距離を置くようになった。

 できる限り目を会わさないで、霧が話しかけようと近づくと調はサッと逃げる。

 互いに気まずい雰囲気が続く。


(なんで、こんなコトになっちゃったんだろう)

 霧と月夜の晩に遭遇したあの夜から、調は霧の夢を頻繁に見るようになった。

 夢の中に出てくる霧は、巨大なボンレスハムで散歩させている犬は骨付き肉だった。

 夢の中で、ホワイトタイガーに獣化した調が。ボンレスハムの霧と骨付き肉の犬を襲う前に目が覚める。

 寝汗で下着まで濡れた調は、自分の肉食獣の本能が、霧と霧の愛犬を食糧として見ているコトに気づき自分に恐怖する。

(霧は食べ物じゃない、犬も食べ物じゃない、食べちゃダメ! 食べちゃダメ!)


 数日後──調は街の商店街で、霧とバッタリ会った。

 逃げようとする調の腕をつかむ霧。

「待てよ、なんで逃げるんだよ」

「離して! 一緒にいたら、あたし霧を……」

 食べそうになる……と、調が言いそうになる前に商店街に悲鳴が響く。


 近くのマンホールから這い出てきた、ワニが霧を見て男の声で喋った。

「おまえ、美味そうなフェルモン漂わせているな……オレのエサになれ」

 下水道から出てきたワニは獣化人だった。


(ハ虫類型の獣化人! しかも、アマゾン川流域に生息していて。大型の哺乳類カピパラも襲って食べる狂暴な『クロカイマンワニ』の獣化人!?)


 恐怖で動けない霧に向かって、ノソノソ歩いてくるワニの獣化人。

「おまえ、オレの獲物になれ……食ってやる」


 調が霧とワニ男の間に入る。調の足は恐怖でブルブルと震えている。

(守らなきゃ、トラの獣化人のあたしが、今は霧を守らなきゃ)

 獣化人の女子高校生、月夜野 調は一度もケンカをしたコトが無かった。

 衣服の上を脱いで、ブラジャー姿になった調が天に向かって吼える。

「うおぉぉぉぉ!」


 第一段階の部分獣化で耳と尻尾が生えた後に。

第三段階の、人型獣化〔怪人獣化〕に移行する。 

 ビキッビキッと骨格が変化する音が聞こえ、ザワッと純白のトラ毛が生える。

 ブラジャーが千切れ飛び、女子高校生ホワイトタイガーの怪人獣化が完了した。

 

 口を大きく開けて、ワニの獣化人が言った。

「てめぇ、やる気か! いい度胸だ! 下水道のジャックナイフとは、このオレの……ぐぎっ!? あがぁぁ」

 いきなり、クロカイマン男の口が太い丸太のような足で押さえつけられ、上の方から男性の声が聞こえてきた。

「大丈夫ですか?」

 見上げると、インドゾウに完全体獣化をした獣化人男性が、クロカイマン男の口を上から前足て踏みつけていた。

 ワニは噛む力は脅威的に強いが、口を開ける力はネコよりも弱い。

 ワニ男を踏みつけているインドゾウ獣化人の後ろには、メスのインドゾウと子供のインドゾウがいた……獣化人のゾウ家族らしい。

「ふぐぅ……ふぐぅ」

 尻尾を振って抵抗する、ワニ男の尾もゾウの足で踏まれて、ワニは身動きができなくなった。


 やがて、ドーベルマン犬の頭部獣化〔被り物獣化〕をした犬の警察官数名が現れ。

 手慣れた様子で、ワニ男の口を縛り、手足も縛って捕縛した。

 イヌのお巡りさんが、調とインドゾウに、敬礼して言った。

「ご協力ありがとうございます……このワニの獣化人は以前から、マークしていた不良でして」


 ズルズルと引っ張られて、用意された軽トラックの荷台に放り込まれたワニの獣化人に、イヌのお巡りさんが言った。

「獣化を解いて人間にもどったら、別の罪状も加わるからな……わかっているな」

 ワニ男が警察に運ばれていくと、獣化を解いて人間体にもどった調は気が抜けたように、その場にへたり込む。


 獣化でブラジャーが千切れ飛んで、胸が露出しているコトにも気づいていない、調に霧は自分が着ていた上着を脱ぐと優しく調の体にかける。

 上着をかけられて、初めて胸を露出しているコトに気づいた調は、両腕を交差させて胸を隠す。


 顔を赤らめている調の肩に手を置いて、きりが言った。

「ありがとう、 調しらべ

 放心状態が続いている調は、肩に置かれた霧の指先をペロッとナメて一言。

「美味しい」

 と言って微笑んだ。


  ~おわり~



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獣化をしたら彼氏はエサ ♪ 楠本恵士 @67853-_-

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