第5話 研究者の記録


現在、人間が克服しなければならないのは「寿命」と「運命」であると私は考えている。

「寿命」の研究は私の古い友人の来摩くるまを始めとして、多くの研究者が手を付けているが、「運命」の研究はあまりふれられていない分野だ。というのもこの分野を研究しようという酔狂な者がいないからというのが主だった原因である。


人類はいずれ滅亡する。

いかに人間が強くなろうと、いかに人間が賢くなろうと、想像絶する大災害や突然変異したウイルス。いつか未知と遭遇し、その対応に遅れたときに人類は敗北する。


           それが「運命」だからだ。


だが、私はその結末を寛容できない。滅亡することなどあってはならないのだ。

そして、神がいるのだとしてもノアの箱舟のように助ける人物を神に決めさせてはならない。救われるものは我々に選ぶ権利がある「運命」に書き換える。私はただそれを実現したいのだ。


私の研究に少しだけ興味が湧いたという理由で、作家先生が街型ドローンを一機ただでくれた。流石。金持ちは違う。


街型ドローンがあれば、大半のことはできるようになる。

表向きは食料生産を行い、その裏で臓器生産を行う事にした。これで国への対応も資金面での問題も解決できる。


まずは、適当に選んだ遺伝子情報を使ってクローンを作成し、十分に労働ができるまで培養液で急速成長させた12歳の男女を複数生み出した。

その中のF0をアンドロイドに置き換えて、時折私が中に入り実験体たちとともに生活をすることととした。


私の実験内容は簡単にまとめると人生のシュミレーションである。

選んだ遺伝子情報は健康的だが、短い人生を送ったものたちを選び、月に一度一人を無作為に選び、処分することにした。この処分をプレインにおいては起こりえない事故死の一つとカウントし、死亡や自殺。精神の安定、不安定。など様々なデータ化を行い観察する。


すると、驚いたことに事故死や自然死する年齢や月日がどの個体もとても似通っていたのだ。最大一週間の差分で事故死または自然死していた。これをもって確証を得たとは言い難いが一度仮説として「運命」が存在することが確認できたとしよう。


次はその介入である。

D4の友人であり、恋心をも抱いていたE4。先日D4が事故死したため、一週間以内に自殺を行う「運命」だ。今回はこれに介入し一週間以上E4を生かすことができれば、「運命」を知った状態での介入は可能であることがわかる。


間近で観察し続けたいため、生命維持器具の準備をしてからカプセルに入る。

そして、F0とのリンクをするために起動ワードを口にする。


「フレッド、コネクトスタート」


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空に住む人 地下に住むもの 戦国 卵白 @A-Biblio

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