パチンコ貧乏神

夏伐

パチンコ貧乏神

 パチンコ屋に行った。


 その日はイベントがあったので、混雑していた。目当ての台は店に30台ある。だが、余裕で台をゲットできるだろう。

 混んでいると言っても、繁盛店よりは人がいない店だから。


 俺はディスプレイに表示された回転数を見つつ良さそうな台を探した。個人的には900回転以上が望ましい。

 丁度良い台を見つけた、同時に違和感も――。


 台の下のスペースにボロボロの衣服をまとった男が座り込んでいる。


 どこかおかしいのか、クスリでもキメてるのか。男の様子に俺はその台の隣に陣取った。

 隣の台の下、気になってしまい横目で様子を伺う。


 男も俺を見つめていた。


 隣に人が座る。


 そうしてようやく気付いた。


 パチ台に人が座りこめるような、そんなスペースは存在しない。


 その台は俺の目論見通り、1000回転で確変に入った。どんどんドル箱が積みあがていく。


 俺を見ていた、台下の男はニヤリと笑って消えた。


 アレは何だったのだと、インターネットで色々なサイトを片っ端からのぞいていく。

 そして、幽霊に取り憑かれると運が向くという記述を見つけた。


 幽霊に見向きもされない奴は、人にも見向きされない。もちろん幸運にも知らん顔される。


 それからしばらくは、パチ屋におかしな幽霊が出ることはなかった。


 だが、あきらめずに探してみると、今度は台の上に高そうなブランド服に身を包んだ男がいるではないか。


 その男に周囲の人間は気づいていない。


 きっと幽霊だ! 俺はその台で打つことにした。


 男と目が合った。お互いにニヤリと笑う。


 ――結果でいえば、所持金が全てパチ台に呑まれた。


 その日から俺はとことんついてなかった。

 家に帰っても例の男が俺を見て笑っている。俺はもう笑えなかった。


 こんな昔話がある。ボロを着た貧乏神を追い出して、豪華な服を着た福の神を祀った村がどんどん貧しくなっていく。


 実は、祀られている神は福の神ではなく貧乏神だったのだ。

 本当の福の神は貧乏神として追い出してしまっていた。


 それを見た時、俺は本当にとんでもないことをしたと思った。


 あの頭のおかしいように見えた男こそが福の神だったのだ。


 そして今目の前にいる貧乏神は、俺が不幸になればなるほど、貧しくなればなるほど、豪華に立派になっていく。


 俺はとんでもない奴に気に入られてしまった。


 あれ以来、今日も今日とて軍資金がパチ台に呑みこまれていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

パチンコ貧乏神 夏伐 @brs83875an

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ