第30話 宣戦布告
さっきの試合の反省やら余韻に浸っている間に、2回目の対戦は全部終わっていた。
考えてみたら3分1本勝負を10組だから、試合と試合の間に3分のインターバルがあって(審査員の採点時間なんだって)合計で1時間なのよね。
源田さんが、
「ここで1時間の休憩時間を取ります。食事はここに弁当を用意しているので、各自一つとって食べてもよいし、食べなくてもよい」
と、リング上から叫んだ。
みんなお腹空いているでしょうに。
源田さん、その後リングから降りて審査員に交じって意見交換か、採点のすり合わせをしているのが見えた。
レフリーと言っても源田さんが一番近くで見ている審査員だってことを私たちは忘れてはいけない。
だけど「食べなくてもよい」ってどういう意味なのよ?
私は、身体を動かしたたった6分間で相当消耗していたし、何しろ別人格が出てくると異常に脳を使うみたいで、ガス欠寸前だったからリングサイドに積まれていたお弁当を迷わず一つ取って観客席座ってふたを開けた。
わあ♡
叙〇苑の焼肉弁当!
後楽園ホールのお隣、東京ドームの定番大人気弁当をこっちにわざわざ取り寄せてくれたのね。
「いただきまーす!」
と言って食べ始めた私の右隣で、村上さんと鳥海さんも食べ始めた。
「う、美味めえなあ!」
村上さんが嬉しそうに食べている。
すると、
「隣、いいかしら?」
戸谷さんがそう言って座った。
「も、もちろんです」
「次、私たち対戦ね」
「はい」
今日は5人とのスパーリングが予定されている。
試合相手は、一つ試合が終わるとすぐに次の試合が発表される仕組みになっていて私も第三試合の相手が戸谷さんだということは分かっていた。
「胸を借りるつもりで頑張ります」
「ええ、こちらも全力で戦うわ。よろしくね」
お弁当をつつきながら、微妙に高まる緊張感に私は落ち着かなくなってしまった。
「あなた、鳥海さんと闘ってみてどうだった?」
戸谷さんにとって、鳥海さんは今日まで無名の存在に過ぎなかったのに、同じ
隣に鳥海さんがいるけど、私は鳥海さんの連携技に感動していたし、褒める分には構わないかなって思って答えた。
「そうですね、とにかく流れるような動きで、いつの間にか逆エビ固めを決められていました。戸谷さん、とても力が強いだけでなく、技も本当にすごかったです!」
「鳥海さん、あなたの技は本当にすごかったわ」
戸谷さん、今度は直接鳥海さんに話しかける。
鳥海さん、戸谷さんのことをよく知っていたからとても緊張しているように見える。
「同じ関節技のスペシャリストからそう言ってもらえるのは本当に光栄です」
「貴女と当たるかどうかわからないけど、できれば関節技ではどっちが上か、はっきりさせておきたいわね」
そう言い放った戸谷さんも、言われた鳥海さんも、不敵な笑顔を湛えて見つめあっていた。
私と村上さんは何も言えず、焼き肉弁当の味もわからなくなっちゃった。
プロレス・ガール Tohna @wako_tohna
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