陰と陽と風と雨と

@ciderlove

第1話 「日陰」と「ヒカリ」

 4月15日

 「………もう5時半か」

 パソコン排気音と無数のモニターに囲まれながら、壁にかけてある時計を見る。

 「そろそろ寝なきゃ」

 とベッドに寝転がる。登ってきた太陽の光がカーテンからこぼれてまぶしい。そういえば学校じゃん今日。課題とか…ないよな。進学したばっかだし。

 そんなことを考えてる間に眠くなってきた。おやすみ私。



 私-猪乃日陰いいのひかげの朝は早い。学校に遅れるのは悪目立ちするから嫌なので朝食を食べ身支度を済ませ、すぐに学校に行く。30分も早く着く自分でもどうかと思うが、これ以上朝遅くしたら絶対自分に甘えて学校に着くのがぎりぎりになってしまう…。

 自分の机に鞄をかけて…そういえば睡眠時間少ないし寝るか…。朝のHRまでは睡眠時間にしようと思いつつ、腕を組んで伏せた。

 「…あーそれそれうちもフイッターで見たわ!」

 「これちょーおもろくない?最高なんだけど!」

 …やっぱり来たか、陽キャ達。まだ学校始まって数日しかたってないのにどうして人だかりができるのか…人間ってすごいな。私と違って笑顔がまぶしい。女神様か。

 と心の中でぼやくが、自分があの輪に入れるとも思わないので組んだ腕から少しだけ顔を覗かせる。

 「(…あっ)」

 中心にいた陽キャの子と目が合った。やばいどうしようどうしよう!え、これ舎弟にされちゃう?それともパシリ?お金持ってないんだけど…。と考え込んでいると向こうが先に動き出した。早いよこっちに来るの。

 「おはよう!猪乃さん!」

 「…おはよう」

 「…」

 「…」

 「…あ!じゃあ私あっちの方行くね!」

 と言い陽キャグループの中に戻る。なんで私なんかに挨拶するんだろう。私の前の席だからかな?と考えてみるがやっぱり分からない…。

 私の前の席の子-四季陽鞠しきひまり。一言で表すと「天才」。主席でこの高校に入り、二日目の運動能力テストでは高校で一番の成績。おまけに美人で胸も…いや、これは私が小さいとかじゃなくてね?四季さんが規格外なんだよ。

 とにかく、そんな才色兼備の女の子だからか、いつも四季さんの周りには人が集まる。それでも四季さん明るく接している。そのステータス、私と交換しませんか。

 とか考えてるうちにホームルームのチャイムが鳴ってしまった。睡眠時間はどこへやら。



 「昼休み、どこで食べようかな。教室はみんなグループ作って食べてるし、かといって食堂は人多いし…」

 空色学園は食事場所が自教室と食堂くらいしかない。人と接するのが好きではない私には罰ゲームだ。部活動に入っている人は部室を使えるらしい。これを聞いて部活動にでも入ろうかなとも考えたが、人間関係が苦手な私には到底無理だった。

 まあいいや…と思いつつ一人で弁当を開けていると、

 「猪乃さんも一緒に食べない?」

 と目の前の女の子が話しかけに来た。四季さんだ。

 「ご、ごめん。先客があって。」反射的に逃げてしまった。しかも弁当開けながらだから不自然かも…。と思いきや、

 「そ、そっか!ごめんね!」と言い四季さんはすぐに自分の持ち場に戻っていってしまった。嫌われちゃったかな。

 とりあえず移動しないと…。


担任の挨拶が終わる。とりあえず今日の授業は終わり…と。めんどくさそうな宿題も学校で終わらせたので今日も帰ってゲーム三昧だな。と心の中でつぶやく。

 すぐさま支度をして下校。帰りにコンビニでジュースと軽いお菓子を買って帰るのがいつもの流れ。家についてまず掃除と洗濯。ついでに家事もやっておく。今日の夜ご飯はあまり豪華ではないがコンビニ弁当よりはマシな程度だ。ちなみに両親は仕事が忙しいらしくあまり帰らないので、身の回りのことは自分でやるようにと言われている。そのせいか趣味のゲームに対しては何も言われない。

 夜ご飯をパパっと済ませて時計を見ると午後20時に近い。自室の電気をつけて3台並んでいるうちの真ん中のpcの電源を入れる。せわしなく切り替わる画面と共に私のゲームライフが始まる。

 私のハンドルネーム-ヒカリ。名前の一文字目が日だからなんとなくでつけたが、案外こういう名前って馴染むと過剰に意識しがちになる。

 ヒカリはネット上ではすごく有名なのだ。まあ数々のジャンルのゲームで頂点に立ち、レートはカンスト。

そんな私の癒しは…あ、今日もオンラインだ。通話しよーっと。

 「あ、お疲れ様~」

 『今日は遅かったね~、なんかあったの?』

 「あ~、今日はなんか疲れちゃってさ…」

 そんなこんなで始まる雑談。いつも話しているのはフユキちゃん-私のネット初心者から仲がいい、よく笑う楽しいかんじの優しい子だ。

 今日はフユキちゃんが面白そうなゲームを買ってくれたらしい。内容は………え?

 「え今日ホラーなんですか」

 『そうだよ~とびきり怖いのがでたんだ♪あれ?ヒカリちゃんはVRゴーグルもってるよね?』

 「うん、まあ一応持ってはいるけど…」

 『じゃあやろ~!』

 「ええ…」といいながらフユキちゃんにもらったコードを打ち込みゲームをインストール。その間に左隣にあるpcを立ち上げVRゴーグルを探す。最近はスマホ用のVRゴーグルが安く売ってるらしいので買ってみたいのだが…。

 「これ、ほんとにやるの?」

 『え?もちろんだよ!もしかしてまた気にしてるの?』

 「いやまあ…うん。」

 『だいじょぶだいじょぶ~最後にやったの一か月前でしょ?』

 「それはそうなんだけどね…」と悩む。

 別にVRホラーが嫌なわけではない。単にVRを使うことが嫌なのだ。目が弱いからつい痛くなってしまうのだ。しょぼしょぼするし…。あと本当にVRホラーが嫌なわけではない。

 『そろそろインストール終わった?』

 「…え?あ、うん。終わってるね。」

 『さすがだね~回線強いっていいな~』

 「フユキちゃんもそこそこいいやつなんじゃないの?」

 『そうかもしれないけど、やっぱりヒカリちゃんのpcほしいよ~』

 「ちなみに今起動してるpcは」

 『…ヒカリちゃんのです…』

 「それで我慢なさい」

 『ええ~』

 自分で言うのもあれだが、私は機会が強い。昔は業者の人にインターネットを通すための工事をしてもらっていたが、満足できなくなって自分でいじったりしていたらいつの間にルーターからサーバー、自宅の電子機器管理まで全部pcでできるようにしてしまったのだ。ちなみにさっきつけた三台あるうちの左側にある筐体は回線の最適化を主にプログラミングしている。ちょっとだけ排気音がうるさいのでいつもは起動しないが、時間を使いたくないときは仕方なく使うのだ。

 『じゃあやろっか~』

 「お、おう!」

 『…もしかしてヒカリちゃんビビってる?』

 「そそそそんなことないけど!?」

 『じゃ起動しよっか?』

 「は、はひ…」

 そんなわけで、私の夜が始まる。

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