彼女がお葬式を好きな理由
きと
彼女がお葬式を好きな理由
「私さ、
暖かくなってきた三月。二人の女性が、
いくら三月が別れの季節といえど、まだ二十代である若い友人と永遠の別れをするのは、やはり辛い。
お葬式が好き。そう言ったのは、髪を栗色に染めて、ウェーブをかけた遊んでいるように思われがちな見た目をした女性、カヤだった。
その隣でカヤの発言に頭に疑問符をいくつもの浮かべている女性はアキ。こちらは髪の毛も染めておらず、真面目な雰囲気を
二人が出席している葬式は、共通の友人のものだった。同い年でまだまだ仕事も恋愛もこれからという時に、重い病気に
彼女達の出会いは高校一年生の時で、ニ年生の時には修学旅行の班も一緒に組み、京都散策を楽しんだものだ。大学はバラバラになってしまったが、それでも定期的に集まり、お酒が飲めるようになってからは、朝まで飲み明かしたりもした。お酒の席では、カヤは余計な一言を言って、彼女を怒らせもした。怒る彼女をアキが、なだめるまでが、お決まりのパターンになっていた。彼女はいつも明るく、アキやカヤだけでなく、誰か他の友達が悩んでいた時や落ち込んでいた時には背中をいつも押してくれていた。
そんな友達が亡くなった。
そして、
晩ご飯を食べて早々に寝た二人は、担当する時間の三十分前に起床した。二人と交代で寝る参列者が寝る準備をしている間、暇な時間ができた。
このまま部屋で待っていてもよかったが、寝起きだからか、もしくは中途半端に寝たからか眠気が襲ってくる。
なので二人は、眠気覚しに式場の中庭を見に行くことにした。
中庭で、なんとなく満開の桜を見上げていた時。アキはカヤに、泣かなかったんだね、とこぼした際の返答が、お葬式が好き、だった。
「……どうして?その人ともう会えなくなるんだよ? 写真や動画は残ってるけど、それでいいって言うの?」
「まさか。私が好きなのは、お葬式ってその人が愛されて生きてきた証を見ることができるからだよ」
またしても、アキの頭に疑問符が浮かぶ。変な表情をしていたのか、カヤがすぐに続ける。
「だってさ、その人が今まで頑張って生きて、いろんな人と親しくなれた。その証にどんな物が好きだったか、みんなで話して。いろんな思い出をみんなで話して。そんな愛された証を見ることができて、ああ、この人は天寿を全うできたんだな、ってなんだか穏やかな気持ちになれるんだよ」
だから、もう目覚めることのない友人を見た時、あんな表情をしていたのか、とアキは納得する。
それでも、
「……私は、やっぱり好きにはなれないな。やっぱり悲しいよ」
カヤもその言葉に、そうだね、と小さく呟く。
風が桜の花びらを散らしながら、優しく吹き抜ける。
しばらくの沈黙が訪れる。こんな時、死んでしまった彼女ならなんて言ったのだろう。
「ねぇ、アキ」
「なに?」
「私ね、お葬式にそんなに悪いイメージがないのには、もう一つ理由があるんだ」
「……なに?」
「その人にお疲れ様って言えるから」
やはりアキには、よく分からない理由だった。
ちらりと横を見ると、カヤは桜を見上げたままだった。その体勢のまま、カヤは続ける。
「これも私の持論なんだけどさ。どんな人でも、頑張って生きてると思うんだ。交通事故だったり、あの子みたいに病気で死んじゃった人も、最期の最期まで頑張って生きてたと思うんだ。だからさ、最期の瞬間まで一生懸命に生きてくれてありがとう、お疲れ様でした。私も一生懸命生きます。そう伝えられて、本当に良かったって思えて、満たされた気持ちになるんだ」
そう言ったカヤの眼には、うっすらと涙が見えた気がした。
アキの表情が、カヤの涙を見て変わる。その表情は、少し前のカヤのように穏やかな表情だった。
時計を見る。そろそろ時間だ。
「行こう、カヤ。これから長い時間一緒だからさ。お疲れ様以外にもたくさんのことを伝えにいこうよ」
「……なんか余計なことまで言っちゃいそうだけど、大丈夫かな?」
「大丈夫。その時は、私が間に入ってあげるって」
歩き出した彼女達の背中を風が押してくれていた。かつて誰かがそうしてくれたように。
彼女がお葬式を好きな理由 きと @kito72
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