キザなひよこ
繕光橋 加(ぜんこうばし くわう)
キザなひよこ
あさのひざしが、いちばに さしこんできました。 このまちは みながみな、 とても はたらきもので、 いちばの きたがわにすむ、 このおじいさんも はたらきものでした。
おじいさんは、 のうふさんで、 あさはやくから やさいを とったり、 だいずを もいだりして、 はたらいているのです。
そんな、 はたらきものの おじいさんのもとに、 にわとりの ふうふがおりました。
この にわとりも おじいさんと おなじで、 たいそう はたらきものです。
あさ、おじいさんを おこすのは、 おとうさんの おんどりです。
「コケコッコウ、 コケコッコウ!!
あさになりましたよ! おじいさん!
コケコッコウ!!」
おじいさんよりも はやくおきなければ、 このしごとは できません。
おかあさんの めんどりは たまごを うみます。
おじいさんが くるまで たまごのうえに みをかがめて、 わるものが ちかづかないよう まもります。
ほんとうは、いつか ちいさな こどもたちと おはなし したいのですが、 せっかく うんだ たまごは、 おじいさんが もっていってしまうのです。
めんどりは ただ
「ヒッケティ ピケティ よいしょ よいしょ」
とだけ こえを もらしながら、 たまごを うんでは、 あたためていました。
そんな ようすを おてんとうさまが ごらんに なっていて、 にわとりたちに こうおっしゃりました。
「おまえたち にわとりは、 おじいさんの ために とくべつ よく はたらいているね。 そんな がんばりやな おまえたちを ねぎらって、 ひとつだけ ねがいを かなえてやろう。」
おんどりは とくに ふかく かんがえることも なく、
「おまえが がんばって たまごを うんで いるのだから、
おまえが ねがいごとを きめると いい。 わたしは ケッコウだ。」
と、 めんどりに ねがいごとを ゆずりました。
めんどりは、 かねてより こどもが ほしいと おもっていましたが、
「それなら、 わたしたちの 子として うまれてくる ひなを、
どうか ひとつ、 たすけてやって くださいな。
いっそのこと、 ひなには げんきで いてほしい ものです。」
おひさまは、 いっそう 2わの にわとりに かんしんして、 にんげんたちの はたらく まちのうえへ ちからづよく のぼっていきました。
さて、 おひさまと おつきさまが なんべんか そらを めぐったころ、 おじいさんが となりむらへ ごようじに でかけ、 そのあいだに ひよこが うまれました。 めんどりは たいへん よろこびました。
ひよこは おとうさんどりと、 おかあさんどりの あいだで、とても キザな やつに そだちました。 キザとは どういう いみで しょうか?
やさしく いえば、 “かっこうつけたがり” とでも いえるかもしれません。
ひよこは おとうさんどりが あさはやく とこを ぬけて、 おじいさんの ために こえを はりあげるのが、 きにくいません。 ひよこは まだ、 おじいさんが かえってこないので、 みずから おじいさんを みたことが なかった からです。
「なぜ じぶんや かぞくいがいの だれかの ために はたらくのですか。
ぼくは ぼくの ために この いっしょうを いきて やろうじゃないか。」
そう かんがえた ひよこは、 あるあさ、 まだ ねむったままの めんどりの うしろから、 にわさきへ ひょっこり でていきました。
ひよこは あたりを みまわしました。 ふだんは おおがらな めんどりを、 おいかけながら みている けしきですが、 こうして じぶんだけで みると、 さまざまなものが いっぺんに めに はいってくる ようです。
きのう はんだ くさちの はっぱが、 あさつゆで ぬれています。 そして そのちかくには、 おじいさんが おおめに そなえていった、 エサだいが ありました。 それを ねらって、 いちわの コマドリが しのびこんで いました。
ひよこは ほおべにを ぬったような かわいらしい コマドリの きを ひこうと、 ちかづいて こえを かけました。
「ひよひよひよ、 おはよう かわいい おじょうさん。
ひよひよひよ、 あそぼうよ。 」
エサを あさろうと しのびこんでいた コマドリは、 とつぜん やってきた じゅうにんに おどろいて ふりかえりましたが、 それが まだ ひなどりの ひよっこで ありましたので、 あいてにもせず、 また たねもみを ついばみはじめました。
それでも まだ ひよこは あきらめず、
「ひよひよ、 ひよひよ、 おじょうさん。
モーニングは きみの くちに あうかい?
ひよひよ、 ひよひよ、 きみに あえた このあさを、
うたにして おくりたいと おもうのだ…」
などと やっています。
コマドリは かげんしらずの ひよこに ついに めんどうくさく なってきました。 そして、 ひよこより ずっと おおきな こえで さえずりました。
「ひろ、 ひろ、 ひろろろろ!!
ぼくは おとこだよ!! あっちに いきな!!」
ひよこは けたたましい こえと、 しょうげきの じじつに ビックリ。
「やあ、 おどろいた。 こんなに ありがたくない “ひよよよよ”は、 はじめて きいた。 なかなかに てごわい。」
エサばから いっきに はしりさり、 にわの しきりように うえてある、 あの ベニカナメモチの こかげまで にげました。 こかげから ふりかえると、 たべおわった コマドリは、 せいせいした ようすで とんでいきました。
「あいつ、 おおきい こえを だせるうえに、 とべるのか…」
それらを ごらんに なっていた おてんとうさまは、 くすくすと わらって、ひよこに こえを かけました。
「やあ、 ひよこくん。 いまのきみが もし、 ねがいごとを するなら
どんな のぞみを かなえたい? 」
「もっともっと、 おおきな こえで うたえるように なりたい。」
「それは、 どうして?」
「いつか きにいった かわいこちゃんの こころを いとめるためだい。」
じきに このひよこが、 りっぱな おんどりに なることを ごぞんじの おてんとうさまは、 ただ わらって そらを あるいて ゆかれました。 そして、 のきのほうへ いくと、 おんどりの とうさんに、
「きみの わかいころと そっくりだねえ。」
と、 はなしかけました。
おんどりは うんともすんとも こたえず、 おおきく すんだ くうきを おもいきり すいこみ、 あさの おとずれを げんきに さけびました。
「コケコッコウ、 コケコッコウ!!
おはよう、 たびづかれの おじいさん!
コケコッコウ!!」
めんどりと、 おじいさんが、 おきてきました。
キザなひよこ 繕光橋 加(ぜんこうばし くわう) @nazze11
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