第7話 『side eyes 羽生明里①』

 私は午後の陽射しが校庭を照らしているのを、エアコンで調整された教室内で眺めていた。

 教壇では五十を過ぎた教員が眠気を誘う覇気の無い声ウィスパーボイスで授業を進めている中、私はどうにも落ち着かない気分だった。

 それというのもつい先日、どうにも頼りない探偵とは名ばかりの男性に愛奈の捜索を依頼したのが発端だった。

 本当に彼で大丈夫だったのだろうか?

 そんな後悔にも似た感情がぐるぐると廻っている。

 「では、ここの問いを―――――高橋くん」

 「せんせー、高橋さんはいませーん」

 あぁ、そうだったね。と一言で済ますと違う生徒を指名した。

 この風景にちじょうもいつも通りだった。

 しかしそんな風景もここ最近は違う。

 「やっぱり高橋さんって―――――」

 「噂によると外の男と逃げたって―――――」

 「誰も気にしてないしね」

 「そうそう、あの人が居なくなっても誰も困らないって言うか―――――」

 吐き気がしてきた。

 誰も彼女の事を知らないクセに勝手な想像で好き勝手言う。

 それが、堪らなく気持ち悪さを覚える。

 そんな負の感情が回り回っていると、授業終了のチャイムが響いた。

 「はい、じゃあ今日はこれまで。委員長は号令を」

 「きりーつ、れー」

 どうにも気合いが入らない号令を受け、一日の終わりを実感しつつ私は帰りの準備をする。

 「ねぇ、羽生さん」

 不意に声をかけられその声の方を見るとクラスメートが真っ青な表情で立っていた。

 「どうしたんですか? 白石川さん。それと橋爪さんも」

 白石川さんは気のせいなのか少しやつれたようにも見えた。

 そしてそんな彼女にくっついている橋爪さんも表情は暗い。

 でも無理もないかもしれない。

 があったばかりなのだから……

 「高橋さんって結局見つかってないの?」

 白石川さんが小声で言ってきた。

 「はい―――――愛奈の携帯に何度もかけたんですけど全然繋がらなくて………………寮の部屋にも行ったんですが同室の子は帰ってきていないと」

 確かに愛奈は少し前まではヤンチャだったけど、それでも最近は良く笑顔を見せてくれるようになった。

 本当にどこへ行ったんだろう?

 「ちょっといいかしら?」

 そう言って声をかけてきたのは同じクラスの大和田摩耶おおわだまやさんだ。

 彼女は所謂スクールカースト上位の人でクラスの中心人物でもある。

 「大和田さん………………何ですか?」

 どうしても身構えてしまう。

 彼女の事が私は苦手だ。

 それは白石川さんと橋爪さんも同じようで少し引き気味になっている。

 「聞いたんですけど高橋さん、という噂が立っているんですけど、本当なの?」

 来た。

 その質問は今一番してほしくないモノだった。

 現に彼女の質問でクラスの全員が会話を止め自分たちに視線を向けている。

 それもそうだ。

 これが事実なら

 「で? どうなの?」

 少し彼女がイライラしているのを感じながらも、私は無難な返答をする。

 「それは偶然です。私も愛奈も―――――

 そんな私の言葉に肩を震わせる白石川さんと橋爪さん。

 あの日の体験はここにいない愛奈を含め四人しか知らない。

 「あらそう」

 興味が失せたらしくそう短く返した後、少し考えるように俯いた。

 「なら、高橋さんの行方を〝まだら〟様に占ってもらうというのはどうですか?」

 突然そんなことを言い出した。

 「えっ?」

 「ですから、高橋さんの行方を〝まだら〟様に―――」

 「二回も同じ事を言わなくても分かります! でも何で?」

 私の質問に大和田さんは見下すように、

 「あら? 別にいいんじゃありません? それとも〝まだら〟様にお聞きすることに何か不都合でも?」

 こんな調子で彼女(ついでに取り巻きも)は事あるごとに突っかかってくる。

 ―――――でも、

 「分かりました。ですが今回は私と、あと『もう一人』部外者に頼んでもいいですか? この『〝まだら〟様』に興味がある方が居るんですがどうしても経験してみたいと言ってますんで」

 しばらく大和田さんが考えたあと、

 「いいですわ。では時間と場所は後ほどお伝えしても?」

 私がうなずくと満足そうに「分かりましたわ」とだけ言うと自分の席へと戻っていった。

 教室中がざわつく中、私は頭を抱えたい気持ちに駆られるがその前に携帯電話の着信がそれをさせてくれなかった。

 画面にはつい最近登録したばかりの名前が表示されていた。

 本当にこの人は何でこんなにタイミングがいいのだろうと疑問に思えてならなかった。

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Jack Eyes がじろー @you0812

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