第6話 『side eyes 神代八雲①』

 「あっつ…………」

 五月半ばの気温にしては猛暑日和で汗で着ているシャツがくっつき気持ち悪さを覚える。

 俺、神代八雲かじろやくもはそんな炎天下の中、とある依頼の調査中だった。

 依頼人である羽生明里はにゅうあかりという少女が通う私立『綾鳴りょうめい女学院』の生徒の行方を探している―――――のだが、

 「やっぱ断るべきだったか…………いや、でも依頼料が良いし…………でもなぁ」

 端から見れば二十後半の男が独り言をブツブツ言ってるのは怪しい。

 実際、学院の近所の奥様方マダムがヒソヒソとされているのを聞いちゃってるし。

 「あのー、奥様方? 少し聞きたいことあるんですが………………お時間よろしい?」

 思い切って話しかけるがスゴい変な目で見られた。

 うん、分かっちゃいたけど地味にへこむ。

 「えっと、何か?」

 怪しい人物を見たように少し身構えられる。

 「あ、聞きたいことがありまして………………この娘の事、知ってます?」

 そう言って一枚の写真を見せた。

 写真は先日羽生さんから借りた女子生徒、高橋愛奈たかはしまなが写っていた。

 奥様方の反応はと言うと―――――。

 「あぁ、この娘なら綾鳴の先生も同じ事を聞いてきたわ。あんまり詳しくは知らないけど、不登校なんですってね」

 予想通りの反応だった。

 しばらく彼女について聞き回った結果、幾つか分かったことがあった。

 彼女は数ヵ月前までは素行が良くなかったという事。

 理由が片親で父親に引き取られたのはいいがこの綾鳴女学院おじょうさまこうに入学、入寮を強制的にさせられたという事。

 彼女の事に関して父親は無関心だという事。

 そして少し前から素行が改善され、成績も伸び始めた時に行方が分からなくなった。

 概ね羽生さんから聞いた話と酷似している事から家出の線も無さそうだった。

 と言う事は、だ。

 「後はこの『〝まだら〟様』ってヤツか………………」

 一枚の用紙を懐から取り出す。

 そこには綺麗で、どこか不気味な曼陀羅模様が描かれている。

 偶然透かして見たときは鳥肌が立ったが、微細な振動でここまで丁寧に呪詛もじが書けるとは思えない。

 「怪奇現象オカルトかぁ…………苦手なんだけどなぁ」

 そんな風に呟いてみるとふと

 「どうやら羽生さんも動き始めてくれたかな―――さてさて、見極めてやろうなないの。その『〝まだら〟様』ってヤツを」

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